第2話 協力者?

 俺は、背筋がすっと立つ感覚になった。

 いや、ここで慌ててはだめだ。


「何のことですか」


 俺は、精一杯の力を振り絞って白を切ることにした。


「安心して。私も手紙を貰った1人だから」


 そう言うと、先輩は手紙を俺に見せてきた。

 俺は、恐る恐るその手紙を受け取った。

 書かれている内容は俺とだいたい同じ。

 ただし、最後に協力者の存在について書かれいてる。


「協力者がいる。その人は同じく文化祭実行委員の書記になるから協力して取り組むこと。だって」


 俺は、はいとだけ返した。

 正直、これが本物なのか分からない。

 でも、俺の手紙の存在を知らなければ、ダミー自体作ることができないだろう。


「安心して。偽物じゃないから」

「はい……」


 俺は、小さく頷いた。


「そういうことだから、これからよろしくね。木上くん」

「はい……」


 そう言うと、先輩は近くの椅子に座った。


「それで、何かこれまでに分かったことってある?」

「いえ、特には」

「こっちもだね。一応、先輩や同級生にそれとなく聞いてみたけど、卒業した学年のことなんてほとんど何も知らないみたい」

「そうですか……」


 ガラッ。


 俺がそう言い終えると、勢いよく教室の扉が開いた。


「雫先輩、良いですか」


 見たことない人だった。

 でも、袴を着ていることから、弓道部か剣道部だろう。


「何かあった?」

「はい、先生が次回の練習メニューについて相談したいって言われました」

「そう。分かった。すぐ行く。それと、よくこの場所が分かったね」

「はい。相良先輩に先ほど教えてもらいました」


 なるほどね。春奈か、と小さく川村先輩は呟いた。


「分かった。先生にはすぐに行くって伝えておいて」

「分かりました。それでは失礼します」


 先輩は、うんとだけ頷いた。

 そして、再び俺の方を見た。


「まあ、とりあえず経過報告は終了。それじゃあ、また後で。それと、私の名字は川村だからね」

「忙しそうですね」


 俺は、少し目線を下にしたまま言った。


「まあ、一応弓道部部長だからね」


 川村先輩はそう言って軽く微笑むと、出て行ってしまった。

 それ以上は何も言えなかった。

 どうやら、名字が分からないことはばれていたらしい。

 洞察力に優れた先輩だなと思う。

 まあ、だからこそ手紙で選ばれたのかもしれないが。

 それにしても、クラスに友達もほとんどいない俺とは正反対だな。

 俺は、少し大きめの息を吐いた。

 他の人のことばかり気にしていても仕方がない。

 俺は、教科書とかが入ったカバンをガバっと持つと、そのまま教室から出た。




5月13日 火曜日

 今日はさっそく実行委員長の先輩から仕事を頼まれた。

 昨年度の資料の整理だ。

 ちなみに今回頼まれたのはほんの一部らしい。

 しかも、川村先輩と2人でやるようにと言われた。

 川村先輩が実行委員長と教室が近いので作業に使う道具を取ってきてくれるらしい。

 作業は俺の教室で行うそうだ。

 まあ、1年生だから部活動生が出てしばらくすると、この教室には誰もいなくなる。



 ぽけっと待つこと20分。

 ガラリと前の扉を開ける音がした。


「ごめんね、待ったかな」

「いえ、今来た所です」


??


 何だか恋人みたい。

 でも、川村先輩の反応はなし。

 ありがたい。


「それじゃあ、作業を始めようか」


 川村先輩は両手に広げた資料を置いた。


「結構、量ありますね」

「そうだね。これだと1時間くらいはかかるかな」

「前年度の資料に×が書いてあるものはそこにあるゴミ箱に捨てていいから。それ以外のものを机の上に置いて」

「分かりました」


 そう言って机に置かれた資料の山は、椅子に座った先輩の胸の位置ぐらいまではあった。


「それじゃあ、さっそく始めようか」


 そう言うと、いくつかの指示を受けた後で整理を始めた。

 かたかた、たんたんたん。

 教室には資料が机の上にあたる音だけが響いている。

 何か話題を振るべきなのだろうか。

 でも、川村先輩は集中しているようで話しかけにくい。

 けれども、せっかくだから勇気を出してみることにした。


「先輩って資料整理のスピード早いですね」

「そうかな」

「ええ。得意なんですか?」

「そんなこはないよ。昨年も同じことをしたからね」


 川村先輩は少し微笑んでいた。

 今の川村先輩は放課後の夕日と合わさって神秘的なまでにきれいだった。

 でも、ふと疑問に思う。


 昨年もした?


「昨年も書記をしたんですか?」

「まあね」


 すごいな。


 ただでさえやりたくない実行委員の中で弓道部に入りながら2年間も書記をするなんて。

 俺は、資料整理のペースが少し下がりながら感動していると教室のドアを開ける音が聞こえた。


「川村先輩。ちょっといいですか?」


 そこに現れたのは3人ほどの制服を着た女子だった。

 雰囲気から察するに弓道部の後輩のようだ。


「少し抜けるね。木上くんは自分の整理が終わったら先に帰っていていいから」


 そういうと、弓道部の女子と廊下の奥へと消えていった。

 人気者っていいな。

 ああやって日々誰かに頼られるということは単純に羨ましいと思う。

 ボッチの俺にはできない体験だから。

 俺は、そんなことをつらつらと考えながら資料整理を行った。



 

 結局あれから先輩が返ってくることはなかった。

 大量のあった資料の山の大半は俺がすることになった。

 さすがに2人でやれと言われただけあって資料の数は多かったため、整理するのに2時間ほどかかった。


「人気者の先輩はいいよな……」


 面倒な委員会の雑用は後輩に押し付けて自分は後輩と部活か。

 こんな悪態のひとつも付きたくなる。

 結局、俺が先輩の分まですることになったのだからこれくらい許して欲しい。

 でも、このままの感じだと、手紙のことも真剣に考えていないのではないだろうか。

 結局、俺1人でやるしかないのかもな。

 俺は、一抹の不安を覚えながら、実行委員長の教室にまとめた資料を持って行った。





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