第2章 この気持ちをあなたに
第12話 自分の気持ちを大切に
テスト1週間前。放課後は4人で勉強会することになっていた。
「じゃあ、また放課後に。迎えに行くから」
「はい、待ってますね」
有沙の教室まで送り、千紘は帰っていく。クラスメイトに挨拶をして自分の席へ着いた。
決して体力がないわけではないが家から学校まで歩くのに疲れた有沙は机に突っ伏して寝たい気分だったが、千紘以外の前ではそんなことはできない。
学校でいる時は月島家の人間としてちゃんとしていないといけない。
背筋をピンと伸ばし、読書でもしようとカバンから本を取り出すとクラスメイトが話しかけてきた。
「月島さん、おはよ」
「花園さん……おはようございます」
いつもは挨拶なんてしないのに今日はどうしたのだろうかと少し不思議に思った。
「初華でいいよ。みんなは初って呼んでるけど。月島さんのことも有沙って呼んでもいいかな?」
「もちろんいいですよ、初華さん」
「じゃあ、有沙で。何か、最近、有沙って雰囲気変わった気がしたから今日は話しかけてみたの」
(雰囲気が変わった……?)
何か変えたわけでもないので有沙は初華のいう雰囲気が変わったという言葉の意味がわからなかった。
「ぐ、具体的にどこが変わったのですか?」
雰囲気と言っても以前と今で何が変わったのかがとても気になり尋ねた。
「そうだね、柔らかい感じになったかな。前は近寄りがたい感じがしたからさ。変わったのは千紘のおかげかな?」
「ちひ……初華さんは、千紘のこと知っているのですか?」
下の名前で呼んでいたので有沙は彼との関係が気になった。
「千紘とは中学が一緒。千紘と付き合ってるんだよね?」
「は、はい……」
「そっか……。千紘のこと好きなら自分の気持ちを大切にね」
「……それはどういう───」
「そろそろ予鈴なるし戻るね。じゃ、また話そ」
有沙の声は届いていたはずだが、初華は答えられないのかこの場を立ち去っていった。
(自分の気持ちを大切に……か)
***
放課後、教室へ有沙を迎えにいくと彼女は中学一緒だった初華と一緒にいた。
クラスが一緒であることは知っていたが、彼女と有沙が仲がいいとは知らなかった。
「有沙、お待たせ」
「千紘。大丈夫ですよ、初華さんとお話ししていたので退屈じゃなかったです」
有沙はそう言って目の前に座る初華を見た。初華は、小さく笑い俺の方へ体を向けた。
「久しぶり、千紘」
「うん、久しぶり……」
「じゃあ、私は帰ろうかな。また明日話そうね、有沙」
「はい……また明日」
有沙は初華が手を振っていたので手を振り返した。初華が教室から出ると彼女はニコニコと嬉しそうにしながら何か言いたげな表情をしていた。
「千紘、新しい友達ができました」
「良かったな。初華は優しいし、仲良くできるといいな」
そう言うと彼女はムスッとした顔をして俺の服の袖を引っ張ってきた。
「千紘、頭を撫でてほしいです」
「……きゅ、急だな」
頭を優しく撫でると彼女は嬉しそうな表情をした。多分、ふと頭を撫でてほしくなったのだろう。
頭を撫でていると彼女はイスから立ち上がり、俺にぎゅっと抱きついた。
「どうしたんだ?」
「寂しいと思いまして。もう少しだけこのままでいさせてください」
先程より少し強く彼女は俺をぎゅっと抱きしめる。またこの前のようにドキドキしているのが伝わっていそうで恥ずかしい。
「少しだけな」
「はい……」
数分後、彼女は満足したのかニコニコしながら荷物を持った。
「さて、帰りましょう千紘」
「そうだな」
***
「だらぁ~」
家に帰るとさっそくソファで寝転がる有沙。今さらだが、そのソファ、気に入ってないか?
「千紘、毛布……」
「はいはい、どうぞ」
頼まれて俺は素早く、寝ている彼女に優しく毛布をかけてやった。
「ありがとうございます。千紘も来ませんか?」
「来ませんかとは?」
ソファは2人で寝れる広さじゃないし、添い寝はできない。というか、できてもしてはいけない気がする。
「添い寝してあげます。あっ、でも狭いのでベッドにでもいきますか?」
ベッドに誘うとか疲れすぎてこの子危ないこと言ってるよ。
「だらぁ~ってするのは良いけど俺は夕食作らないといけないから」
そう言ってキッチンへ行くと彼女は小さく笑い目を閉じて寝ようとしていた。
彼女は学校と学校以外で立ち振舞いを使い分けている。俺といる時はいつも今みたいな感じで割りと自由だ。だが、学校での有沙は何だか堅苦しそうな雰囲気がある。
なぜ俺といる時と他の人でそんなにも違うのかはわからない。けど、俺といる時だけこうなのは多分俺のことを信頼していて心を開いてくれているからだと俺は思っている。
学校でも今みたいに柔らかい感じでいればいいのにと思うが彼女は親から人前では月島家の人という自覚を持てと言われているらしいのでそれは無理らしい。
自分を押し殺してまで自分らしさを出せないのは疲れる。だからこうして誰もいないときは自由に過ごすのだろう。
「千紘、今日の夕食は何ですか?」
寝たかと思ったが、彼女は寝転びながらキッチンで夕食の準備をする俺に尋ねてきた。
「何だと思う?」
「そうですね……肉じゃがです」
「あ、当たってる……凄いな」
「ふふん、近くにいなくても千紘が何を作っているのかわかるのです」
その才能はおそらく誰にも自慢できないやつだな。相手が「そうなんだ」としか反応できなさそうだ。
「デザートにプリンあるけど食べるか?」
この前、作って有沙が美味しいと言ってくれたので再チャレンジしてみた。
「食べます! もちろん、食べます!」
美味しいものを食べさせて好感度をアップさせようなんて作戦はないが、彼女の食べるときの幸せそうな表情が好きだ。だから彼女のために作ってしまう。
「わかった。用意しておくよ」
「はい、楽しみにしてます」
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