第38話 幕間 キスの相手は

 ーー宿にて。


「全くもう、あなたは何をやっているんですか!?」


「す、すまん、つい……」


「つい、じゃありません! 今後はわたしの指示なく動いてはダメです。いいですね?」


 ルーネは「いいですね!」と人差し指を突きつけながら、正座している俺に圧をかけてくる。俺は「は、はい!」と返事をし、素直に反省の態度を示したあと、風呂に入った。


 風呂の中で、まったくルーネのやつ……と思いつつ、彼女が「わたしもお風呂にいきます。少し頭を冷やしておいてください」と言っていたのを思い出す。つまり、今は裸か……? いや、覗いたら何されるかわからん。やめとこう。


 しばらくして、先に上がってきたルーネは「いいお湯でしたね」と言いながら、石鹸のいい香りを漂わせていた。


 ベッドに座ってポンポンとベッドを叩くルーネの横に腰掛けると、彼女が静かに問いかけてきた。

「今後、どのようなことがあっても、わたしを信じてくれますか?」


 突然の発言に驚いたが、俺の答えは決まっていた。


「ああ、ルーネを信じるよ」


 その瞬間、ルーネがふいに俺の頬にキスをした。


「こ、これはほんのお礼ですから!き、気にしないでください!」


 そんな風に言われたら、逆に気になってしまうだろうが……。


 ーーーーーー


 わたしはルーネ・フィン・カルネミラール、第二王女。


 れいと共に行動して、あることに気づいてしまった。わたしは彼のことが、好きになってしまったのかもしれない。彼の強さ、優しさ、そして無鉄砲なところさえも。だが、この気持ちは胸の奥にしまっておかなければならない。彼のために、そうするべきだから。


 わたしは彼に誓った。彼の刃となり、盾となることを。守護者としての誓いを果たすことが、わたしの使命だ。たとえわたしが彼に恋をしていても、それを口に出してはならない。


 けれど、ふと考えてしまう。

 ――もし、わたしが最後を迎える時が来たなら……彼は、わたしのことを好きになってくれるのだろうか?


 そんな淡い希望を胸に抱きながらも、わたしは彼の隣で静かに歩き続ける。それだけで、今は十分だと自分に言い聞かせて。


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