学園女神譚

オオサキ

プロローグ

三条瑠璃(さんじょうるり)が学校からマンションの自分の部屋へ帰ってくると、すでに玄関に靴がもうあるのに気がついた。


「なんだアイツ、もう帰ってきてたのか」


瑠璃(女子みたいな名前だが男)が廊下を通ってリビングの方へ行くと、ソファの上で灰谷留羽が寝っ転がって漫画を読んでるのが見えた。


長い黒髪を滑らかに伸ばし、ショートパンツにキャミソールというかなり気の抜けた格好でいる、黒目と赤目のオッドアイの彼女の名前は灰谷留羽(はいたにるう)。瑠璃の同級生で学園の女神と言われている女子だ。


そして────


「なんだ、随分早かったな」


「うん、瞬間移動で来たから」


美少女すぎて学園の女神とまで称される彼女は、本当に超常的な力を持った『女神』なのである。


ある日、瑠璃が学校から帰ったらドアの前にこの留羽がしゃがんでいたのである。


その時点ではクラスでもあんまりしゃべったことなくて、ほぼ初対面みたいな状態だったのだが、なんか流れで一緒に住むことになってしまったのである。


で、住んでいるうちに本物の女神であることが判明したのだが、『まあ、いっか』ということでこうして一緒に住み続けている。


「とりあえず夕飯にしようぜ」


「そうね。今出すわ」


留羽がテーブルの上に指を向けるとビームみたいなものが出てテーブルの上に食事が出る。女神は便利なのだ。瑠璃も留羽に出会うまでは簡単な料理ぐらいは作っていたのだが、こっちの方が美味しいのでこっちに切り替えた。


すごくいい。すごく便利。一家に一台女神様。


ドラ○もんのグルメテーブルかけに憧れてた身としては感慨深いものがある。


ということで、食事にする。


「今日は何見る?」


「最近流行ってるみたいだし、このラブコメものでいいんじゃない?」


「じゃあそれ見ながら食べるか」


留羽と瑠璃は食事の時は二人でアニメを見ながら食べるのが習慣になっている。


席に着くと、小さなスマホの画面を二人で覗き込むようにしながら見る。ちなみに、アニメ見放題のサブスクに入っている。


最近流行りのそのラブコメというのは、冴えない男子高校生が学校一の美少女とひょんなことから同棲することになるというあらすじだ。


『うわー、だいぶ濡れちゃったなあ。天気予報では晴れって言ってたのに・・・・・・早くお風呂に入ろう。風邪引いちゃう』


「あっ、これお風呂でばったりイベントフラグじゃない?」


瑠璃がそういうと、留羽がこう問い返した。


「お風呂でばったりイベントって何?」


「知らんのか。お風呂でばったりイベントってのはな────」


『きゃああああああ!』


『あっ、ご、ごめん!』


「こういうヤツだ」


「ああ、なるほど、こういうのね。・・・・・・あれ?これ私たちもおとといやらなかった?」


「うっそマジで?俺らお風呂でばったりイベントなんてやった?俺全然憶えてないんだけど」


「やったわよ」


ガラッ


『あっ、ごめん。先入ってたんか』


『うん』


『じゃ俺あとで入るわ』


ガラッ


「────こんな感じで」


「ああ、そうかあれ気づかなかったけどよく考えたらお風呂でばったりイベントか」


「そうね、私も今これ見てて気づいたけど、お風呂でばったりイベントだったわ」


「そうかあ・・・・・・じゃあ俺らはもうそんなビッグイベントを消化してたんか・・・・・なんか思ってたよりぬるっとしてたな。ぬるっと終わったな」


「そうね、でも現実なんてそんなものよ。大体お風呂でばったりイベントなんてアニメや漫画ではこんなふうに盛られるけど、現実ではそんなものなの」


「そっかあ・・・・・・」


「そうなのよ・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・いやおかしくない?普通そんなぬるっと終わる?ぬるぬるじゃない。ローションなの?」


「何自分で言って自分でツッコんでんの?いやでも、お前の裸見たってなあ・・・・・。妹みたいなもんだしなあ・・・・・・」


「何それ?のちに妹みたいに見られなくなって意識しちゃうフラグ?なら気持ち悪いのだけど」


「いや絶対的に違う。本当にお前の裸見てもなんの感情も湧かねえだけだ」


「あっそう」


もぐ、モグ・・・・・。


そこで会話が切れて、瑠璃と留羽はしばらく黙ってご飯を食べた。アニメでは主人公とヒロインがお互いに意識し始めてちょっといい感じになっていた。


「大体、この学校一の美少女と同棲することになるっていう展開自体おかしいから。そんなこと現実世界にないから」


「身も蓋もないこと言い出したな・・・・・」


留羽が急に文句を言い出して、それに瑠璃がツッコんだ。


「・・・・・・いやていうか、え?何、お前それギャグで言ってんの?反応に困るんだけど」


「・・・・・?なんのこと?でもまあ、現実では絶対そんなおいしい展開起こるわけないけど、あなたたち男子はその希望を捨て切れないのよね」


「天然かあー・・・・・・でもまあ、確かにそういうことがあったらな、って中学生くらいの時はよく妄想したな」


「そう・・・・・・あなたがそう望むなら、私は空から美少女を降らせて同棲する展開にすることも出来るわよ」


「マジで!?」


「ええ。はれときどきぶたじゃなくて、はれときどきおんなのこにすることだって出来るわ」


「いや別にそんなに降ってもらわなくてもいいけど・・・・・・でもそうか。それならそう願おうかな・・・・・・いややっぱりやめとこうか」


「どうして?」


「どう足掻いてもいいところでお前に邪魔されそうな気がするからな」


「ひどいわね。私は邪魔なんてしないわ」


「そうかあ?・・・・・・おっ、エンディングだ!これけっこう話題になってたから見るの楽しみにして─────」


「ところで、私今喉が乾いているのだけれど、麦茶持ってきてくれないかしら?」


「・・・・・ほらな、どう足掻いてもお前に邪魔される気しかしないだろ?」


仕方なく立ち上がって麦茶を取りに行く瑠璃。というか、俺に頼まないで普通に女神パワー使えばいいじゃん?と思いつつも、どうせそう言っても瑠璃が取りに行くことになるのは変わらないと思うので素直に取りに行く。


留羽はおそらく麦茶が欲しかったのではなく、瑠璃を顎で使いたかっただけなのである。だから結果は変わらないのだ。


コップにトクトクと麦茶を注いで帰ってくる瑠璃。


「はいよ。というか、あまり水分摂りすぎるなよ。お前この前もジュース飲みすぎで夜中トイレ行きたくなって俺がついてく羽目になったじゃねえか」


「いいの、今は夏なんだから、とりあえず水分摂っとくのが一番重要なんだから。それが最重要任務なの。夜中トイレ行きたくなるかもしれないなんて考えなくていいのよ」


「それにしても摂りすぎだろ。お前、夜中一人でトイレ行けねえんだから・・・・・・ていうか、お前女神なのになんでお化けにビビってんだよ。おかしくない?」


「別にビビってないわよ。私はただあなたの睡眠を邪魔したいだけ」


「シンプルにクソ野郎」


こうして夕食を食べ終え、アニメの続きを見たりお風呂に入ったりなんやかんやしたあと瑠璃と留羽は眠りに就いた。


そして案の定夜中留羽に起こされて、『ちゃんとそこにいる?』『いるよー』という会話をトイレの前で何ラリーもする羽目になるのであった。

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