第5話 切り取ったもの - 2
(あたたかい写真……)
思わずその写真をじっと見つめていた詩季に対し、女性はどこか悲しそうに声をかける。
「やっぱり、こんなおばあちゃんがスマホを使いこなしてるのって変かねぇ?」
「不躾に見てしまい申し訳ありません。先ほど撮られていたその写真に見入ってしまいまして……」
「あらそうなの?」
「はい。とてもあたたかくて、ユーニの雰囲気を切り取ったかのようで。とても良いな、と思いました」
女性は虚をつかれたと言わんばかりにぽかんとした後、凪のような優しい笑顔になった。
「ありがとうね。……もしも良かったらなんだけど、この写真もらってくれないかい? 褒めてもらえたのが嬉しくてね」
「いただいても良いのですか?」
「もちろん、データを送るから受け取ってもらえたら嬉しいよ」
「——はい、これで送れたと思うよ」
「届きました、ありがとうございます!」
(思わぬものをもらってしまった……! これ、Secondgramに載せられないかな。こんなに上手く雰囲気を切り取っててステキなんだから、ぜひみんなに見せたい。載せていいかどうか、後で聞いてみるか)
「いえいえ。我ながら良く撮れた写真だったからね。気に入ってくれたあなた……えっと、名前を聞いてもいいかい?」
「もちろんですよ。僕の名前は川瀬詩季、cafeユーニの店主をしています。ぜひマスターと——」
「詩季ちゃんね、よろしくね」
「あ、……はい」
(お客様、一度決めたことは基本譲らないタイプですね。別に嫌ではないし「詩季ちゃん」っていう呼ばれ方でもいっか。……この年になってそれは少々恥ずかしいけど。まあうん)
「わたしは
「はい。よろしくお願いしますね、京子さん」
和やかな空気の中、京子はコーヒーとケーキを食べ始める。なみなみと入っているおかげか、コーヒーはそこまで冷めてはいなかった。
「美味しかったねぇ。コーヒーは程よい苦味と香りがあって、ケーキは濃厚で。どちらも後味までよかったよ」
「そう言っていただき嬉しいです。調理担当の子にも……」
ふとキッチンの方を見た詩季は、ひょっこり顔を出している暁斗と目を合わせた。苦笑しながらこっちへおいでと名前を呼ぶと、暁斗は詩季と京子のもとへ来る。
「ほ、褒めていただきありがとうございます、京子さん」
「あら私の名前……」
「キッチンからも聞こえました。あの、俺は水島暁斗といいます」
「それなら暁斗ちゃんね、よろしくね」
暁斗はぺこりとお辞儀をする。そんな様子を見ながら詩季は、ちゃん付けで呼ばれる仲間が増えたと安心していた。
(さすがにそうだよね、さすがに僕だけちゃん付けとかはないよね。よかったよかった)
「さて、そろそろ帰るよ。また来るね。ここは不思議な懐かしさを感じるから。とても心地のいい場所だね」
静かに立ち上がった京子は、会計をして帰路についた。
時は過ぎ、午後6時前。片付けを終えた2人は帰ろうとしていた。
「今日もお疲れさま」
「マスターもお疲れさまです」
「うん、ありがとう」
「じゃあ俺はこれで失礼します」
(あとはSecondgramに投稿して、戸締りチェックして帰るだけだよね。……あ、危ない危ない、忘れてた)
詩季は、裏口の扉に手をかけた暁斗に声をかける。
「ごめん暁斗くん、ひとつ聞いても良い? 京子さんがいらしてた時にケーキを持ってきてくれたのってどうしてだったの? 接客は苦手だって言ってたからさ、気になっちゃって」
「……それは、少しでもホールのお手伝いができるようになりたいな、と思ったからです。京子さんなら大丈夫な気がしたし、忙しいわけでもなかったので。緊張してがちがちになっちゃいましたが」
「なるほどね。でも勇気を出してやってくれて僕は嬉しいよ。あんなにちっちゃかった暁斗くんがこんなに成長して……!」
詩季は親指と人差し指の間に1センチほどの隙間を開けて言う。それを見た暁斗はふわりと笑顔になった。
「詩季先輩、俺そんなに小さくなかったですよ?」
(暁斗くんや、いつの日かの呼び方に戻っておるぞ。……まあそれは置いておいて、久しぶりに君の笑顔が見れたね。誰が見ても笑ってるって分かるような)
***
【Secondgram 6月3日18時29分 cafeユーニ の投稿】
〈カウンターを背景になみなみのコーヒーとチョコケーキを撮っている写真〉
6月3日(月)こんばんは!
本日もご来店ありがとうございました!
忙しい日も良いけどのんびりな日も良いなぁと思っているマスターです。
この写真ですが、実は本日いらっしゃったお客様が撮ってくださったものだったりします。(Secondgramで使って良いとご本人から許可をいただいております)
cafeユーニの雰囲気そのものを切り取ったかのようで、とてもあたたかな気持ちになるお写真を、ぜひこの投稿を見ている皆様にもお見せしたいと思いまして、この投稿に使わさせていただきました。
ステキなものをありがとうございました。
さて、明日と明後日はお休みをいただきます。開店以来初のお休み、積んでいる本を読んだり溜まっている動画を見たりしようかと考え中です。
では、また。『cafeユーニ』でお待ちしております。
〒×××-××××
〇〇県△△町□□×-×
営業時間 11時 - 17時
定休日 火曜日、水曜日
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