第3章 - 夢の中の記憶
私は、夢子から受け取った古文書を読み進めていた。夢見る者たちの物語は、私の心を奇妙な感覚で満たしていく。まるで、彼らの経験が私自身の記憶のように感じられた。物語の中に登場する人物たちの喜びや苦しみが、まるで自分のことのように胸に響く。
古文書には、夢見る者たちが夢の中で体験した不思議な出来事が細かく記されていた。現実では起こり得ないような出来事、時間や空間を超越した体験、そして時には恐ろしい悪夢までもが綴られている。
読書に没頭しているうちに、いつしか私は眠りに落ちていた。そして、再び例の夢を見た。しかし今回の夢は、いつもと違っていた。
私は、時計塔の前に立っている。しかし、塔の周りの風景は、現実の町とは異なっていた。空は紫がかった色に染まり、建物の輪郭はぼやけている。まるで、水彩画の中に迷い込んだかのような感覚だ。
そのとき、塔の時計が動き出した。針が3時を指すと、塔の扉が開いた。中から、一人の女性が歩み出てきた。彼女は、まるで私を待っていたかのように、こちらに歩み寄ってくる。
女性の姿が近づくにつれ、私は息を呑んだ。彼女は、夢子にそっくりだった。しかし、どこか違う。より若く、より儚げな印象を受ける。
「あなたが来るのを、ずっと待っていました」
女性は、そう告げた。彼女の瞳は、どこか悲しげで、懐かしさを感じさせた。
「あなたは、一体……」
私が尋ねると、女性は微笑んだ。
「私は、この町に伝わる伝承の登場人物の一人です。そして、あなたの前世の恋人でもありました」
女性の言葉に、私は言葉を失った。前世の恋人――。その言葉が、私の心の奥底に眠る記憶を呼び覚ました。懐かしさと切なさが、胸に押し寄せてくる。
「あなたは、夢見る者たちの一人でした」女性は静かに語り始めた。「現実と夢の世界を自在に行き来し、その経験を書物に残そうとしていた。あなたの書いた物語は、多くの人々の心を動かし、夢と現実の境界を揺るがすほどの力を持っていました」
私は、自分の過去の姿を思い描こうとする。夢と現実を行き来する作家。その姿は、現在の私自身と重なるようで、不思議な感覚に包まれた。
「しかし、あなたは次第に夢の世界に魅了されていきました」女性の声が悲しみを帯びる。「現実世界との繋がりを失い、夢の中に閉じ込められてしまったのです」
女性は、悲しげに語り続けた。「私は、あなたを現実に引き戻そうとしましたが、叶いませんでした。あなたの魂は、長い間夢の世界をさまよっていたのです」
私は、女性の言葉に耳を傾けながら、自分の内側に広がる感情の渦を感じていた。懐かしさ、悲しみ、そして不思議な安堵感。すべてが混ざり合い、私の心を満たしていく。
「だから、今度こそは……」女性の声が、切実さを帯びる。「あなたには、この呪縛を解く力があります。夢と現実の狭間に立つ者として、両方の世界を結ぶ架け橋になれるのは、あなたしかいないのです」
女性の姿が、徐々に薄れていく。私は必死で彼女の手を握ろうとしたが、指は虚空をつかむだけだった。
「あなたなら、この呪縛を解くことができる。私はそう信じています。そして、私たちはまた会えるはず……」
かすれゆく声で、女性はそう告げた。そして、私の目が覚めた。
夢の中の出来事が、まるで現実のように感じられた。私は、自分が夢見る者の一人だったのかもしれない。そして、過去のある出来事によって、夢の世界に囚われてしまったのかもしれない。しかし、今の私には、その呪縛を解く力がある。そう信じずにはいられなかった。
私は、机の上の古文書に手を伸ばした。夢見る者たちの物語の中に、私自身の物語が隠されているような気がしてならない。真実を知るためには、もう一度夢の世界に足を踏み入れる必要があるだろう。
窓の外を見ると、夜明けが近づいていた。新しい一日の始まり。そして、私の新たな冒険の始まりでもある。
私は、ペンを手に取り、書き始めた。現実と夢の狭間で揺れ動く、私自身の物語を。それは、単なる小説ではない。私の魂の記録であり、夢見る者たちへの鎮魂歌でもあるのだ。
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