3-4 もっと尊い誰か-個別面談・オシムラ編-
#46 ミスター盾役/深山風護
トワール分隊の個別授業、二人目はオシムラだった。例によって廃校の教室にて。
「まあ俺が一番気楽なんじゃねえの」
「そうっすね、この後のキヨノエルさんが怖いです」
「だな、じゃあ早速いくべ」
補助類・自己強化系・フィジカル群・シェル耐久力増大・Aランク、マンジュウ・バリア。
耐久能増大とあるが、実際には「自身に加わる霊傷性の減少」であり、ゲーム的に言えば「被ダメージの一定値をカット」に当たる。この性質を「減傷性」と言い、減少・現象と区別するために口頭では「げんきず」と呼ぶことも多い。
「そしてこの減傷性を霊熱によって出力しているのが俺のゴスキルだ、さあ質問してこい」
質問の催促が来た、考え方を問おうとしているのだろう。
「じゃあ……攻撃に対してオシムラさんの意識で減傷性を出力する、という使い方ですか?」
「そうだな」
「減傷性を出力する間は、ダメージを受けていなくても霊熱を消費しますか?」
「イエスだ。つまり?」
「無駄を減らすために被弾タイミングに合わせた発動を行うか、安全のために非効率でも予防的に張っておくかの選択になりますか?」
「本来はそういう仕様だった。けどゴスラボで改善してもらってな、意識していなくても自動で減傷性が出るモードに切り替えることもできる。アクティブとパッシブというより、マニュアルとオートの併用って所だ」
「なるほど便利な……オートの欠点はどんなでしょう?」
「ダメージカット量が減るし、霊熱効率も悪い。強力な攻撃をマニュアルで防ぎつつ、それに集中できるように不意打ち対策でオートを張っとくって感じだな」
意識を分散しなくて済む対策、というコンセプトは風護も納得しやすい。
「そのハイブリッドに加えて、援護分隊のカバーがあるから、オシムラさんは正面の敵に注力できる、ということですね」
「そういうことだ。で、ここからはどう体を使うかって話だが」
人間型の霊胞の部位ごとの霊傷性への耐性は、生域の人間での打たれ強さと概ね似ている。手足は強いし頭や胸部は弱い。特に首は最大の急所になる。
違いを挙げるとすれば、まずは痛覚。股間や鳩尾を打たれてもそこまで痛まない。そして霊胞壁が破れない限りは「欠損」がない、つまりは骨が折れたり手足が切り落とされたりしない。その意味でも手足を攻防に用いるメリットは大きい。
「俺は減傷性を特定の部位に集中させることができないから、元々の耐性に等しくブーストすることになる。重い一撃は腕で、連撃や範囲攻撃は体全体で受けるのが主だな。
ただ、いくら防御向きだからって受け続けているとジリ貧だ。よって方針は主に二つ、ほれ言ってみフウゴ」
「二つですよね……アタッカーと連携できる場合は、的確に援護してさっさと倒してもらう。そうでなければ、組み付いて動きを拘束する」
「そういうこったな。拘束に関しては、生域でいう柔術とかレスリングあたりを参考にしてる」
霊域の徒手格闘において、継続的な行動抑止に有用なのは寝技や関節技である。どこを殴ってもケガにはならないが、関節の可動域は生域と似通っているため、そこを上手く押さえ込めば拘束できるからだ。
「オシムラさんが手にデバイス持たないこと多いの、そういう理由ですか? 掴みにつなげやすいように」
「そ、使えるし場合によっちゃ使うけどな。掴んで投げたりタックルで押し倒すのが一番早いし、特に離反者相手ならそれで済むのがベストだ」
相手がかつての仲間であっても、霊管隊員に重大な危険を及ぼすなら撃滅もやむなし――というのが軍の方針であり、3特対の役割である。しかし最も望ましいのは殺さず生け捕りにすることだ。
「つまり確保を目指す場合、斗和さんの攻撃よりもオシムラさんの拘束がキーになるってことですか?」
「ああ。相手が攻撃類の場合、トワは武装……つまり効果体の迎撃や発動体の破壊を目指すことで俺やヒデさんを援護することになる。撃滅の場合と逆とも言えるな」
「目標の判断は士幹、俺たちの場合はモリノブ小隊長の指示次第ですよね?」
「基本はな。ただモリノブさんの権限で、ヒデさんに判断を一任する場合もある。戦況が一番見えてるのはヒデさんだろうって理屈でな」
「階級が2つ違っててそれですか、尊敬されてるんですねヒデ隊長」
「名誉曹長とか呼ばれてるからなあ、あの人を先輩だと思ってる士幹は結構いるぜ」
それから実際の戦術を何パターンか聞いたところで。
「ゴスキルに関してはこんなもんだな、こっからは思い出話だ。フウゴ、ヒデさんの話も聞いたろ?」
「ええ、なかなかにヘビーなのを」
「俺のはそんな重くないから気楽に聞いてくれ」
「なんで気楽に聞けない話に限ってそう言うんですか皆さん」
「いやほんと、死に方がしょーもなさすぎるんだよ。ヒデさんの後だと余計に」
「しょうもない亡くなり方ってなんすか……じゃあ最初にそれ聞きますよ」
「じゃあ言うぞ」
享年22歳のオシムラは額を押さえてから、ぼそりと言う。
「深酒した後に風呂入って死んだ」
風護は即答しかけて、数秒ほど悩んでから、やっぱり言うことにする。
「さすがに親不孝が過ぎませんか、それは」
「いやほんとそれ」
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