#44 マルチロール・ガンナー/深山風護

 トワール分隊の個別授業、一人目はヒデレッド分隊長である。中隊拠点の廃校、空き教室にて。

「僕が最初だと緊張するかい?」

「緊張ってほどでもないですが、どんな空気になるか掴めなかったもので」

「なかなか予定が立てづらくてね」

 ヒデレッドは教卓の上に飛び乗る。風護は前から二列目の机に腰掛けた。


「さて、改めて個別面談の趣旨を説明しよう。

 これから僕たちは戦場の最前線で命を預け合う関係になる。互いの戦い方やゴスキルの内容、人間性に至るまでよく知っておく必要がある……と、僕は考えているんだ。

 生前から霊管までのバックグラウンドは、霊管で戦う意味にも、ゴスキルの根源にもつながるからね」


「ええ、俺も実感しています。護風棍が成長したのは、クミホ中隊長の力添えあってなので」

「分かってくれてるなら良かった。じゃあ……せっかくだし作法通りに」


 ヒデレッドは教卓の上で、かざした左手首を押さえながら叫ぶ。

「――レッツ、翔撃しょうげき!!」

 くるりとターン。腰に出現したホルスターから赤と銀のハンドガンを抜き、華麗に縦回転させつつ構える。

「はい。君にもおなじみのヒデレッドブラスターだ」


 なりきりを笑うのは絶対に違う、しかし格好いいと喜ぶのも違う気がする、困った風護は「いいデザインですよね」とブラスターを褒めた。

「だろ? フウゴは元ネタも知ってるかな」

撃隊げきたいの一作だってのは分かります、ただ俺の世代じゃないですね」

 撃隊シリーズ、ご長寿特撮の双璧をなすチーム系ヒーローだ。ちなみに個人系ヒーローはペルソナイト、風護は後者の方が思い出深い。


「残念、まあ無理もないか……『スペース翔撃隊ユニバーズ』だよ、放送は28年前かな」

 風護が生まれるよりもずっと前である、さすがに触れていない。ただ名前からして宇宙モチーフなのだろう、SF的な意匠には納得がいった。

「つまりヒデさんが生前に好きだったヒーローの武器が、今のゴスキルになっていると?」

「そう、厳密に言えば買ってもらった玩具かな。撮影用よりは若干小さいしね」

「はあ……ってかヒデさん、ガンスピン上手すぎません?」

 8歳男児の手にはやや大きめのハンドガンを、ヒデレッドは右手で自在に回転させている。

「ありがとう、任務中はしてる暇がないからね。こういうときはついやってしまうんだ――よっと」

 ヒデレッドは銃を投げ上げつつターンしてキャッチ、しっかり撃てる体勢である。

「さて、この銃について一緒に振り返っていこうか」



 攻撃類・射撃多用途系/補助類・妨害系 銃器型・Aランク、ヒデレッドブラスター。

「ヒデ」はやはり本名由来、撃隊シリーズ伝統のメンバーカラーをくっつけている。なお原作ではレッド専用ではなくチーム共通の装備とのこと。

 Aランクとはいえ、遠隔武器ということもあり火力には欠ける。国内トップである斗和の【絶断】とは雲泥の差だ。

 しかし、射出弾種と射出方法のバリエーションは非常に豊富であり、それを柔軟に使い分けることによる応用性こそが持ち味である。


 射出弾種は5系統。

 霊傷性を持つアサルト弾と、反傷性を持つブレイク弾、これらは同じ弾にブレンドさせることも可能。

 霊熱産生能スタミナに作用して意識を遠のかせるスリープ弾、かなり霊熱を消費するので乱発は難しい。また、かなり消耗した相手にでないと意識を落とし切るのは厳しい。

 痛覚刺激を与えるショック弾、訓練にも妨害にも使える。

 光弾の見かけのみで効果のないダミー弾、撹乱・牽制用。


「あの、訓練で使うのダミーじゃダメなんですか?」

「痛くないのは緊張感に欠けるだろ? 傷をつけず痛みだけ与えられるのは霊胞の便利なところだ、利用しない手はない」

「……ヒデさん、もうちょっと優しい言い方をですね」

「さて、今は5系統も扱えるけれどね」

 人間性を置き去りにして、アラサー男児は説明を続ける。

「本来はアサルトとブレイクが一緒くたになった弾しか撃てなかったんだ。訓練と開発でこれだけゴスキルは変化できるって点でも良い例なんだよね」

 

 続いて射出方法。

 標準的な威力・速度・射程で一発ずつ撃つショット。

 射程と威力を抑え、近距離に連射するバースト。これは攻撃よりも迎撃に向いている。

 大量の霊熱を消費して、威力を高めるマグナムと、速度・射程を高めるスナイプ。距離に応じて決め手に使う。

「そして威力・速度・射程の全てを高めた渾身の一発がアルティメットだ」

「はい、アルティメット」

 これだけネーミングの方向が違う、やはり根本的に厨二なのだろう。

「加えてショットならマニュアル……つまり意識することで、ちょっとした軌道操作も可能だ」

「自動ホーミングはできないんですね?」

「ゴスラボで検討したんだよ、ただ上手くいかなくてね」

「そこまで便利にはいきませんか……それでも持ち札の多さは国内屈指じゃないです?」

「伊達に長く特士やってないからね。ただ忘れてほしくないんだけど、僕はどうしても接近戦には弱い。この体格だと逃げるのに精一杯だからね」


 ヒデレッドは8歳の見た目からは想像もつかない腕力を発揮できるが、それでもリーチ不足は否めない。

「あの……デリカシーのない質問になるんですが」

「いいよ、僕は率直な発言の出やすいチームを目指しているから」

「ええ。やっぱりその体は……子供のまま大きくならない体は、悔しいですか?」

 霊人の体は、見かけ上は年を取らない。それを老いない喜びと取るか、成長できない悲しみと取るかは、享年や性格による。

「悔しかった時期もある、かな。何年経っても子供に思われるのは仕方ないとして、僕は戦闘に適応できさえすればいいんだよ。だからもし銃撃戦が主流の世界だったなら、的の小ささは武器にもなって良かったかもしれない」


 反実仮想を語る口調は、やはりドライなもので。

「けど、ないものねだりで終わるのは好きじゃないからね。接近戦はチームメイトに任せるようにした、そのぶん前衛のアシストに余念がないよう技を磨いた。マンジュウなんかは、ヒデさんは小さいぶんカバーしやすいとか言ってたかな……ともかく、僕にとっては戦いやすい分隊だよ」       

 それでも、仲間を語る口ぶりは、ちょっと温かい気もする。


「それにね、僕は恵まれてると思うよ。霊人全体からすれば、これだけ長く最前線に居られるのは奇跡的と言っていい。

 何より。昔の僕からすれば、夢みたいなんだよ。強みがあって仲間に囲まれた、今の僕は」


 ヒデレッドはブラスターをホルスターに納め、教卓の上に胡座をかく。

「じゃあ、生域に居た頃の話と、なんで死んだかの話をしようか」

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