3-3 ヒーローの理由-個別面談・ヒデレッド編-

#43 訓練の日々/深山風護

 クロナギ中隊に転属となった風護だが、すぐに実戦投入とはならなかった。警備連隊以上にビギナーの入り込む余地はない、お呼びが掛かった時点で現場は危機的であるケースが多いからだ。


 代わりに、座学と実技の両面で、みっちり訓練を受けることになった。



 例えば、CIPSによる連絡を格闘中に行う訓練。


「まだいくよ」

 ヒデレッドは光弾を撃ちつつ、チャットで問題を出してくる。

〈解放同盟に所属するこの戦闘員の特徴は?〉

 風護は光弾を護風棍で弾きつつ、送られた画像の男を見つつ、テキストを作成する。

〈霊傷性を持つ腕がプロジェを貫通するので注意〉

「ブー、リトライ」

 密度を上げた弾幕をエアギスで遮りつつ、風護は頭を回転させ。

〈霊傷性を持つ左腕が、推定2センチの厚さのプロジェを透過するので注意〉

「なんか抜けてるよ」

〈訂正、推定2センチ以下の厚さのプロジェ、です〉

「お見事、はい」

 軌道を変えた光弾が、一息つこうとした風護の脇腹に直撃した。

「攻撃が止むまで油断しちゃダメ、もう一回やるよ」

 ショック弾の痛みが抜けないまま、風護は再び射撃と出題に備える。



 例えば、分隊でのフォーメーション訓練。

「ストップ。フウゴ、今どうしてその位置を選んだ?」

「敵の逃げ道を塞ぎつつ反撃に備えるため、ですが」

「周り見てもう一回考えろ」

 オシムラに言われ、風護は周囲を見渡して。

「すみません、ヒデ隊長の射線を塞いでました」

「その通り、一回止めるよ」

 ヒデレッドから風護へ説明。


「いま想定している敵は近接系、よってこの場で一番速さと射程に優れているのは僕だ。分かるね?」

「はい」

「恐らく君は無意識に、敵から味方後衛を庇うような位置取りを選んだ。けどこの場合、僕から敵への射線を維持する方が優先なんだ。もちろん、僕が数歩ずれれば撃てるは撃てるんだけど、タイムラグはない方が良いし、他の味方との兼ね合いもあるからね。

 いいかなフウゴ、体で止めるんじゃなくてゴスキルで止めるんだ。単純な直線じゃなくて、味方それぞれの射程を踏まえて陣形を組んでいるのを忘れずに」

「はい!」



 例えば、援護分隊を相手取っての、敵陣を突破する訓練。

「ほらほら、単調すぎるよ!」

 シールドとバトンを駆使して、風護のトンファーを難なく弾いていく先輩隊員。

「はい――そこ」

 エアギスを撃とうとした瞬間、タックルで押し倒される。

「よっと……タイミングが見え見えだね」

「くっ……発声なしで撃てるってだけじゃ不足ですかね」

「それも大きな進歩だけど、顔というか雰囲気が出ちゃうんだよ、仕掛けるってのが」

「顔……どうすれば読まれないようになりますか」

「読まれるのは仕方ないから、あえてムード出してフェイントにする、とかかな」



 例えば、飛行するゴスライドからの降下訓練。

「目標から13メートル……ちょっとは良くなったけど、まだ全然よ」

「はい、すみません」

 一瞬でも早く接敵するために、スピードに乗った機体から敵の近くまで飛び降りる。トワール分隊が多用する空挺戦術だ、本来の「空挺」とはやや違う意味合いだが。

「ミヤマくん、やっぱり飛び降りのタイミングが遅れるんだよね……思考加速、どれくらいできるんだっけ?」

「2倍なら数秒はいけます、ただその後しばらくは酔いますね」

「じゃあ実戦で使うの危ないね、この速度で慣れよう。もう一回」

「はい、お願いします!」



 そして転属前から続く斗和との稽古にも変化が現れていた。


 拠点である廃校の校庭にて。

「――らあっ」

 斗和の連撃を捌き切った風護は、お返しの前蹴りで彼女をのけぞらせる。斗和に当て身を食らわせるのも慣れてきた、それはいいのだが。

「はい、」

 風護の軸足が、格闘教官サトエリのスライディングに払われる。慌てて転がりながら立て直そうとする風護に、斗和の反撃が迫り。


「うおお!」

 斗和の刀が風護を捉えた一瞬後、飛んできたオシムラが斗和へタックルしていた。

「どうだったフウゴ!」

 斗和から離れつつ問うオシムラに、風護は「当たりました!」と答える。

「おおん!」

 悔しげに天を仰ぐオシムラの隣、斗和とサトエリは「いえーい」とハイタッチしている。


 サトエリ。年は15+8歳、ダウナーそうな雰囲気が特徴の女子隊員。かつてはトワール分隊に所属しており、今は格闘指導教官として各部隊を回っている。


「はい反省会~」

 サトエリは手をたたいて一同を集める。今回は風護&オシムラと斗和&サトエリによるタッグ戦だった。

「ミヤマくんは今回、オシムラさんとの連携を目指していたよね。最後、なんでオシムラさんのカバーが間に合わなかったと思う?」

「事前の想定よりも俺とオシムラさんの距離が離れていたから、ですか」

「だね、じゃあなんで離れちゃったんだろ?」

 風護はオシムラを見て、それから打ち合っていた斗和を見る。

「斗和さんの誘導に引っかかっていたから、ですか」

「そして二人の誘導に俺も引っかかったから、だな」


 オシムラはそう述べてから、今回の組み手を振り返る。

「トワもサトも攻撃類だって想定でやってたじゃん? まず俺は前半、トワの攻撃を受け止めすぎて、耐久値がだいぶ削られてたのよ。だから相手がサトに交替した後、ガードよりも回避を優先するようになってた」

「ので、私はバクステさせるような攻め手を増やしてオシムラさんを下がらせた。トワもだよね?」

「うん、これはガードより回避したくなるな~って攻撃を選んだよね。サトからの提案通りに」

 そうして風護とオシムラの距離が空いたところで、サトエリは斗和に合流。オシムラもすぐに風護の援護に向かったが間に合わず――という流れだ。


「つまりは俺が斗和さんとのタイマンに夢中になって、オシムラさんとの連携……あとサトエリさんの奇襲を意識から外してたのが敗因ですか」

「それも一つだわな。俺は俺でビビりすぎた、リスク取ってでもカウンターで投げるなりできたからな」

 風護が直面しがちな課題の一つ。目の前の敵に集中するあまり、他の敵や味方への意識が欠けがちになる。


「うん、この誘いに乗るなよ~って思いながら風護を誘ってたかな。さすがにそろそろ直そう」

「ですね、すみません」

 この前の予告通り、斗和はちゃんと厳しい。

「けど良いこともあって!」

 斗和は一転して笑顔を浮かべながら風護の背後に回り、風護の肩に手を置く。

「今の私、スピードの手加減ゼロだったよ」

「あれ、そうなの?」

 確かに風護も、いつもよりも技がスピーディーには感じた。

「そうだよ~、もう私の速さに追いついちゃってるじゃん! 成長が早い!」

 バシバシと風護の肩をたたく斗和、かなり盛り上がっている様子。

「そっか……ありがとう、斗和が教えてくれたおかげだ」

「聞きました皆さん!? このよくできた弟子を!」


 斗和のニコニコ顔に見つめられた残り二人は、それぞれ。

「……なんかフウゴ、ムカついてきたな」

「え、オシムラさん?」

「ってかトワ、いつの間にこんな姉貴面するようになったの?」

「ひどくないサト?」

 など、あんまり乗ってくれなかった。まあ確かに、浮ついたノリを見せつけられてウザいだろうなとは風護も思う。口にすると斗和が悲しみそうなので言わないが。


「ところでサトエリさん」

 風護には彼女にこそ聞いておきたいことがあった。

「俺はサトエリさんの後任に当たると聞いているんですが……その視点で、俺はどうです?」


 サトエリも元ゴスキル使いで、格闘型の攻撃類。前衛でサブアタッカーとサブディフェンダーを兼任するポジションは、風護が目指すの姿とも近い。そもそもトワール分隊が早くから風護を引き込もうとしていたのも、従来より1人少ない編成をネックに感じていたからだそうだ。

「う~ん、後任って意識はウチには薄いんだよね。ミヤマくんの方が防御寄りだし、ウチは純近接だから」

「俺ら的には結構近いぞ。今フウゴに教えてる立ち回り、多少は護風棍に合わせて調整してるけど、基本はサトがいた頃のだから」

「あ、そうなの……オシムラさんがそう言ってるなら良いんじゃない? 私はあくまで格闘を教えに来ただけだし」

「……了解です」


 サトエリの一歩引いたスタンスに、風護は引き下がる他なかったが。

「風護、そんな心配することないからね」

 サトエリに評価を求めた心情は、斗和がちゃんと汲んでくれた。

「このチームの一員に向けて、風護はちゃんと育ってるから。 入ったばかりで躓きが多いのは当然、焦らず周りを信じてね」

「……だね、焦っても良いことない」 

「そう、悩んでる暇あったら訓練訓練。ってわけでもう一本やろっか!」

「――はい、お願いします!」


 そうして訓練と勉強を繰り返す中、風護はひと味違う教育を受けることになる。

 トワール分隊各員とマンツーマンで過ごし、それぞれのゴスキルと人間性を深く理解するのだ。

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