異世界転生記
狐ヶ崎ナズナ
第1話 はじまりの森
夏草が生い茂る時期の昼、相良音也は自宅で10年前祖父から貰ったペンダントを見ていた
10年間開けることは叶わず肌身離さず持っていたがひとりでに音を立てて開き始めたのだ
(昔、じいさんから貰ったペンダント10年間何をしても開けられなかったのに何故勝手に開いたんだ?
それに手紙?)
音也がペンダントの中身を見るとそこには手紙入っており、こう書かれていた
「音也へ
この手紙を読んでいるということはもう時期が近いということだろう
こんなことを書いても信じられないだろうが、お前は救世主になる
その力を以ってすれば、何も恐れることなどない
そして…私の代わりにプロセルピナを救ってやってくれ
これ以上は伝えられないのだ…厳しいようだがあとは音也自信が答えにたどり着いてくれ
十蔵より」
音也は絶句した
手紙を読み終わってもなお訳がわけがわからなかった
救世主とプロセルピナという訳のわからない言葉が並んでいるからだろう
(何言ってるんだ…?
じいさん…おかしくなっちまったのか?
俺が救世主?
大体、プロセルピナって…?これ以上は伝えられない?何故だ?)
わからないことばかりで考えれば考えるほど思考が混乱する
音也はインターネットや自宅にある本で調べてみるがどれも答えに近づくものは無い
神話やゲームの内容ばかりで答えとは呼べないものばかりだ
(朝から色々ネットで調べてはいるが、ゲームの記事ばかりだな
じいさんはゲームなんてしないはずだが…)
音也はパソコンから目を離して、立ち上がる
休憩しようとベットに横になる
(じいさん…何を伝えたいんだ…?)
音也はふと昔を思い出していた
音也の祖父・十蔵が野宿に慣れていたこと、獣に襲われた時、素手で倒していたことなど卓越した才能があったこと
十蔵に聞いてもそれらはいつ身につけたか話してはくれなかったこと
ただ時が来ればわかると言われたことを思い出していた
その時、音也はあることに気がつく
(このペンダント…よく見れば装飾が綺麗すぎるな…10年も経ってるのになんでこんなに綺麗なんだ?
俺は肌身離さず身につけているし、丁寧には扱っている
でも少しも傷がない…?)
再び調べ物をしようとペンダントを首にかけた時、ペンダントが光り始める
「なんだ⁉︎」
音也は気絶し、その後の記憶はない
どのくらい時間が経ったのだろうか
「……て…て…の…」
何者かの声がしている
途切れ途切れではあるが
(ん…なんか声が…)
音也は意識は取り戻したのかその声に少し反応する
「起きてなのー!」
「⁉︎」
音也はその大きな声で目を覚ました
音也の周りに小さな妖精が飛んでいた
その妖精が声をかけていたようだ
「妖精…?というかここどこだ…」
「森だよ〜」
「見ればわかるが…」
音也が寝ていたのはハンモックの様なものだった
木々が生い茂り、木漏れ日が差している
服が少し破け、痛みを感じる点に目を瞑れば良い目覚めなのだろうか
それだけで自宅では無いし、森と判断するのは容易い
「遊ぼうよ〜」
「と言われても、ここがどこかわからないから教えてほしいんだが…」
音也がそう呟くと、金髪に紺色の服を着た少女が来た
「コラ!その人は起きたばかりだからやめなさい!」
少女はフェアリーに怒ると音也の方に顔を向けた
「…君は?」
少女は軽く頭を下げると名乗り始めた
「私はサーシャです
見たことない衣服を着ていますが、貴方は?」
「相良 音也
音也って呼んでくれれば良いよ
君が俺を助けてくれたのか?ありがとう」
サーシャは少し恥ずかしそうにする
音也はその間、ペンダントの中身を見る
すると、また光に包まれる
「またか!」
「眩しいのー!」
「なにが起こったの⁉︎」
音也は1度この光景を見ているため、驚きはしたが慣れている
サーシャとフェアリーは初めてなのでこのような反応でもおかしくは無い
しかし、今度は気絶することもなにもない
「なんだったんだ…」
何か感覚がある
それも全身に
(オトヤさんは気づいてないかもしれないけど
さっきまでただの人だったのに急激に魔法力が跳ね上がってる)
音也の体からは先程の光のような力が溢れるように出ている
その光景を見たサーシャはこう言う
「オトヤさん、お母様のところに行きましょう」
「お母様?」
サーシャが先程の光景を見たあとから突然言い出したため音也は困惑する
サーシャが先に歩き始め、音也がそれについて行くという状況だ
5分ほど歩くと、大木で作られた城のようなものがある
サーシャが城門まで行くと鎧を着たエルフたちが頭を下げる
音也が通ろうとすると…
「人間がこの城に何の用だ!」
城門のエルフたちは音也に槍を向けている
その光景を見たサーシャはエルフたちに言った
「私の友人に手荒な真似は許しません!
武器をしまいなさい!」
「こ、これは!姫様のご友人とは知らずに無礼な真似を
申し訳ございません!
どうぞお通りください!」
サーシャの一言により音也は問題なく通してもらえることになった
サーシャの案内で階段を上る
「…人間を嫌っているのか?」
音也は思わず聞いてしまった
それについてサーシャは答える
「人間のことが嫌いな訳ではありません…
フェアリーが高く売れると信じた一部の人間がこの森を荒らしているのでお母様が人間を遠ざけているのです
フェアリーが高く売れるなんてことは噂なので本当はそんなことは無いのですけどね…」
サーシャは苦笑いをしていたがその目からは涙がこぼれていた
これまでも仲間たちが捕まり、売られたのだろう
「…すまなかった
悪いことを聞いたな」
「いえいえ、あ!
お母様はこの部屋にいますので案内しますね」
音也は謝罪するがサーシャは悪いと思わせたくなかったのか少しはぐらかす
「お母様、サーシャです
友人を連れてきたのでお話をさせてください」
「入りなさい」
外からサーシャが声輪をかけると透き通った声が帰ってくる
ドアを開けるとサーシャと同じ金髪の女性がこちらを向いている
「初めまして、私はこの森の主・アリアと申しま…!
サーシャ、人間を連れてくるなと伝えていたはずですが?」
アリアは深々と頭を下げるが人間だと気づいて、その態度を変える
「お母様、この方は気絶していて森で倒れていたのです!
フェアリーやこの森に危害を加える人ではありません!」
サーシャはこう言うがアリアは納得していない様子で
「その方は他の人間と違って清らかな魔力を感じますが、人間である以上警戒しなければなりません
サーシャ、貴女には姫としての自覚が…」
そこまで言いかけたとき、叫び声の様なものが聞こえる
「あいつらまた…!」
「待ってくれ!サーシャ!」
サーシャは叫び声のした方に走っていく
音也はそれについて行くもサーシャは速い
普通の少女ではこの速度は無理だろう
アリアは音也がサーシャについて行くように走っていったことに困惑しているようだ
(人間にも良い人はいるのでしょうか?
いや、それでも今までの悪行を許すわけにはいきません)
アリアはサーシャと音也が居なくなったあと心の中で考える
(速いな…成人男性の中では早い方だと思っているんだがなぁ…)
音也はサーシャが止まるまで追い続けた
しばらく走るとサーシャは止まる
「おう、嬢ちゃん
また来やがったな」
サーシャ「うるさい!早く出ていけ!
森荒らし!」
サーシャは中年オヤジの様な風貌の男に対して罵声を浴びせる
「つれないねぇ…今回は退かないよ
生活が苦しくて金が欲しいんでね」
男が指を鳴らして合図すると
男の後ろから武装した山賊が出て来た
「そっちがその気なら…私一人で相手してあげる!」
サーシャはなにもない空間から弓と矢筒を取り出す
その瞬間男の顔から笑みがこぼれる
まるで勝ちと言わんばかりの得意げで不敵な笑みだ
「嬢ちゃんは人間と最も相性が悪いんだよなぁ
こんな小さな羽虫一匹で手が出せなくなるからよぉ〜」
男の手には小さなフェアリーが握られている
まだ幼体だ
「その子はまだ幼体でしょ!離しなさい!」
「じゃあ武器を捨てな!前回はその武器で身体中刺しやがって!」
男はサーシャにやられた傷を見せながら語る
(追いついてみたらこんなことになってるとは…武器はナイフで平気だろう
悪いが…使わせてもらう)
サーシャは武器を捨て両手を挙げる
男はサーシャとの距離をさらに詰めた
その瞬間、男の頬から血が出る
「⁉︎」
「緊急事態だ、借りるぞ」
音也はサーシャに近づいていた頭領と思われる男の背後から攻撃した
音也が使ったものはサーシャのナイフだ
「オトヤさん…ありがとうございます!」
一般人にあっけなく背後を取られたことにより、山賊の集団はしばらく固まる
そして…
「………お頭ーー!」
「何だ、リーダー格にしては弱いな」
「てめぇ!許さねぇ!」
山賊たちはサーベルを構える
しかし、音也は…
「そんな物騒なもの持った集団に真正面から突っ込むわけないだろ」
音也は木に成っている実を取り投げつける
それも目に向かって
「うおぉぉ!目が痛ぇ!
なんだこれ⁉︎」
「刺激物特有の匂いがしたからな
目潰しだ
俺も死にたくはない」
明らかに只者ではない
この環境に短時間で順応している
「早く目を洗わないと洗わないと視力が落ちるぞ
洗ったら余計痛いがな」
「覚えてやがれ!」
「残念だがもう忘れた」
音也なりの皮肉が効いた返しで山賊たちは去っていった
「あの…なんであの木の実が刺激物だってわかったんですか?」
「ああ、似た様な木の実を知ってるからな
意外なものが武器になったりすることもある
ナイフ、勝手に使って悪かった
返すよ
それと…」
音也は手を開くと先程の幼体のフェアリーが出てくる
「さっき君から聞いた話もそうだが、妖精を羽虫呼ばわりするのは許せなくてな」
「本当にありがとうございます
これ以上なんてお礼をしたら…」
「気にするな
俺はこの世界についてなにも知らない
教えてもらいたいんだが、良いか?」
言葉通り、音也はここに来たばかりだ
なにも知らなくて当然だ
「はい!」
サーシャの返事は元気が良かった
(ありがとう
私にとっての勇者様…)
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