第8話 死と存在の意味

学校から帰り、部屋で宿題を済ませる。夕ご飯を食べて、少し予習すると疲れた身体を暖めるためにお風呂に向かう。洗面所で着ている衣服を脱ぐと鏡に映る自分の顔を見てから浴室のドアを開けて浴室に入った。バスタブの前でシャワーで身体を軽く流し、バスタブの湯温を確かめバスタブに入る。夜の静けさが広がる中、時佳は湯船に体を沈め、お湯の温かさに包まれていた。柔らかな湯気がゆらゆらと天井に昇っていく。


彼女は指先で湯の中に浮かぶ小さな泡を掬い上げ、そっとそれを見つめる。泡は美しく、透き通り、瞬く間に消えていく。それはまるで人生そのもののように感じられた。


「どんなに素晴らしい経験をしても、どんなに素晴らしい瞬間があっても、最終的にはすべてが終わってしまう。どれだけ積み重ねても、すべてが無意味になってしまう…」


その考えが、再び彼女の心を重くした。お湯に漂う泡は、次々と消え、消えゆくたびに、ときかの思考もまた遠くへと向かっていく。彼女の目はぼんやりと天井を見つめながら、問いが深まっていく。


「死。なぜ私たちは、それに抗えないの?」


彼女は溜息をつきながら、意識が次第にぼやけていくのを感じた。泡のように、やがてすべてが消え去る、そんな無力感が胸を締め付ける。


お風呂から上がり、タオルで髪を拭き。身体を拭く。下着を着て、パジャマを身に着けると暗い廊下を歩き部屋に戻る。部屋のベットに倒れ込むと、ぼんやりとした考えが次から次々に浮かび上がる。



…死があるからこそ、私たちはその生きることを…瞬間瞬間を大事にするのかもしれい…


その思考は、まるで暗闇の中に一筋の光を求めるような祈りだった。


…もし、私たちが永遠に生きられるなら、たぶんすべてが当たり前になって、特別に感じなくなると思う。だけど、限りがあるからこそ、一つ一つの経験が意味を持つんじゃないかな。だから、全てが終わるっていうことは、無意味じゃないんじゃないかな…。


…終わりがあるからこそ、その過程が輝くのかもしれない。日常の何気ない瞬間さえも、限りがあるからこそ価値を持つ…


しかし。彼女の中にはまだモヤモヤとした感情が残っていた。


…やっぱり怖い。なくなっちゃうって思うと、なんか…何をやっても意味がないように思えた…


それは自然なこと?、その怖さを感じること自体が、生きてる証拠なのかな…


少しだけ肩の力が抜けて、まだ完全に納得できたわけではないが、少しだけ軽くなった心で、再びベッドに横たわった。窓の外には、満天の星空が広がっていた。死と存在の意味をまだ完全に理解することはできない。それでも、時佳はその未来の最後の瞬間を考えながら、目を閉じて深い眠りについた。

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