第42話 フローリアに邪魔なもの

俺と公子はフォースリア公爵家に集まっていた。公爵様は最初、俺のいう事を半信半疑で聞いておられたが、今は我々の計画に協力して頂き評議会などの根回しをしてもらっている。




「夜会が始まる前にから、エドワード殿下の周りは騎士団で固める予定だ」


「公爵様、我々魔導士は宮殿の各所に人員を配置して、公子の魔法陣のマーキングを感知したらすぐ、転移で駆けつける手配をしています」


 俺たちは宮殿の見取り図を広げて、抜け落ちがないか三人で最終確認をしている。




「殿下の周りに人がいなくならないと、向こうとしては手が打てない。次の手を打たれる可能性はあるね……。紹介の儀の最中も不安だな」


「そうだな。では紹介の儀は私が殿下をお抱き申し上げるとしよう」


「いいですね。父上。しっかり殿下をお守りしてください。ソフィアには私が付きますから」




「殿下の側を離れずお守りすれば、前回の事は起きないわけですが……」


 俺はまだ不安が拭えなかった。




 毒の出どころはフローリアの栽培している草だと、魔塔で判明した。協力者は、ドット子爵と、ガーランド伯爵夫妻だろう。陛下は媚薬でまともな判断が出来ていない。だから、エドワード王子とソフィアの周辺を警護すれば、問題は起きないはずだ。




「あ!一つ見落としが……」


「どうした、ティモシー」




「公子、殿下が毒を与えられた時、ウィリアム陛下しかお側にいませんでした。召使いや側近はともかく、エドワード王子の乳母が側を離れるなど、あり得ません」


「確かに……それは、妙だな。ソフィアもいなかったのだろう?」


「前後の時間を探索しましたが、部屋に入室した時には、乳母はおりませんででした」




「殿下が危篤の時には、側にいたか……?」


「……おりました」


「いつもの乳母と同じ人物か……?」




(くそっ!そういう事か……?)




「公爵様、公子、私は魔塔に戻ります」




 ***




 フローリアは頭がいいが、どこか単純でもある。だから私には、色々と都合が良かった。私が王の姉だからか、何を言っても信じているように見えた。だから少しだけ、方向を与えた。




「フローリア様、ご懐妊は暫く伏せておかねばなりませんよ」


「そういうものなんですか?」


「ええ。高貴なお子を身ごもると、それを快く思わない者もおりますからね」


「陛下のお子だから、この子も王子様か、王女様ですよね?」


「はい。そうなりますね」




 フローリアは妊娠した事が嬉しいようだった。正室と側室で三人も妃がいるのに、子供は二人だけだった。ウィリアム自身が、子供が出来にくい体質かと思っていたが、さすがに頻繁に通っているだけあってフローリアは無事に妊娠した。




「陛下にも秘密、ですか?」


「ええ。陛下にお伝えする時期は、私とご相談しましょう」




 そして、私はさも残念そうな顔を作って言った。




「ただ、残念でなりません……」


「何がですか?」


「私の母は第一側室で、私も……王女でした」




「でも、陛下が男子だから王太子になったんですよね?」




「ええ。ですが、王家では子供の順位は母親によって決まります。ですから、本当は私に続いて、二人の妹、その次がウィリアム陛下でした」




「……何人いても、男子が王太子になるんじゃ?」


「いいえ。母親の順位です。ウィリアム陛下のお母様は下位の男爵家の令嬢で、とても王妃になれるご身分ではありませんでしたが、色々な事があって立后されました。それで、四番目の陛下が王太子になったのですよ」




「……伯爵夫人が王太子になれなくて、残念だったって事ですか?」


 フローリアは怪訝な顔で私を見た。




「いえいえ、そうではありませんわ。フローリア妃のお子様にも、本当は機会があってもいいのに残念だと思いましてね」


「機会?」




「私にとっては、ご側室になられてずっとお支えしているフローリア様が、もっといい目をご覧になってもいいのに、と少し残念なのですよ」




「でも、私は元々貴族ではないし……」


「陛下のお母様だって、ほとんど平民と変わらない暮らしの男爵家でしたよ」


「そうなんですか!」




「ええ。王が亡くなると後宮は解散します。父王が亡くなった時、母は故郷のバークレー領に帰りました。私は王太后様に勧められて既に結婚していましたが……。富豪とはいえ、伯爵夫人になってしまいましたけれどね」




 フローリアは何か考え込んでいる。ウィリアムに何かあれば、フローリアはオートナムに帰らねばならない。また元の暮らしに戻るのだ。その時にまだ若ければ、ドット子爵が面倒を見てくれるかもしれない。フローリアが戻った時に、ドット子爵がいれば、の話だが。




「妹の事はドット子爵からお聞きでしょ?末の妹は、バークレーで母の面倒を見てくれていて、未だ一人ですわ。やはりお立場から言うと、一番心配なのがフローリア様です。他のご側室様は、ご実家がしっかりしていますからね」




「どうやって、陛下のお母様は王妃様になったんですか?」




(ああ、もう少しね)




「後ろ盾ですわ。フォースリア家のご令嬢をウィリアム陛下の婚約者にして、立場を支えたのです」


「後ろ盾……」


「でも、フローリア様にも私どもが付いておりますよ。ガーランド家もドット家も富豪です。両家を併せれば、フォースリア家にだって……」




「力を貸してくれるって事ですか?」




「ああ、でも!……やはり難しいかもしれません」


「え、難しい?」




「エドワード王子殿下がいらっしゃいますもの。元公爵家令嬢の王妃が産んだ、正当な王子。こればかりいは……どうしようもないですわね」


「私の子供はどうなるんでしょう?」




「そうですね……悪い事にはならないと思いますが、私たち姉妹の例もあります。何とかお幸せになって頂けるよう、お力添えいたしますわ」




 フローリアは、俯いてさらに何か考えている。




(ふふふ。さあ、よく考えるのよ)




「ああ、そう言えば、ビアンカ妃のデイジー姫のご体調が悪いみたいですわね。秘匿されているけれど、そんな噂を耳にしましたよ」


 フローリアはピクリとした。




(あら、何かあるのかしら?)




「……病気ですか?」


「原因は分からないらしいですけど、お加減が悪くて寝たり起きたりで、なかなか回復しないみたいです。詳しくは分かりませんが。子供というものは、急に大病したりするので、心配ですわねえ」




「もし、もしですが、高貴なお子様方に何かあれば、身分の低い子が王太子になったり出来るのですか?」




(ふふ、かかった……!)




「そうですね。王妃から生まれたエドワード王子殿下のご身分は絶対ですから、お元気にお育ちになれば無理ですわねえ。デイジー姫はご側室の子ですから、仮に、仮にですが、フローリア様が王妃様になったりすれば、まさにウィリアム殿下の時と同じ事がおきますわねえ……」




(さあ、フローリア。あなたに邪魔なのは王妃と王子殿下よ。よく覚えておくのよ)


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