聖王国の山賊騎士団
納豆たまご
第一章 動乱の兆し
第一話 プロローグ
聖歴2242年、秋期 初めの月 聖王国立大学史学科にて
講義室に座り、教授が来るのを待っている。ついでに小学生からの腐れ縁であるジョシュアが遅刻もせずに2限の講義に出て来ていることに驚いている。この講義は必修ではない。選択だ。聖王国史上もっとも人気のある時代を取り扱う講義で、しかもテスト無しのレポートだけで4単位とはおいしい講義である。講義名は『聖王国中近世史特別講義』。
ああ、私はノリス。歴史好きが講じて大学は史学科に入った。ちなみにジョシュアは何となく遊べる時間が多そうという理由で選んだらしい。私は遊ぶ時間を削って勉強してようやく入ったというのに。これだから地頭の良い奴は嫌になる。もっとも、本気で嫌ってたら小学生から大学2年生までつるんでいないが。
この国、ストラスマール聖王国の中世後期から近世前期は、動乱の時代だった。この国だけではない。数か国を巻き込む大戦争に発展した時代だ。数多の英雄が生まれ、そして英雄の数だけ新たな戦法も生まれた。ああ、時間か。教授が来た。
「えー、それでは聖王国中近世氏特別講義を始めます。本日はどんなことをこの講義で学ぶかというオリエンテーションです。この講義は選択です。必修ではありません。寝ててもかまいませんが、講義を聞きたい学生の邪魔にはならないように。」
お決まりのセリフだ。担当する教員によっては、寝るのは許さんという人もいる。だが、他の学生に迷惑さえかけなければ、講義に参加するのもしないのも自分で選べという風潮が強い。まぁ、それで良いと私も思うが。
「本講義では、これまでの中学、高校の時に勉強した歴史や、本学で1年生の時に学んだ何々史概論のような、広く浅く全体を学びましょうという勉強から、範囲を絞ってもう少し深く学ぶということを行います。特に中世後期から近世にかけてですね。この辺りは歴史創作物などでも取り上げられることが多く、みなさんも触れることが多い時代でしょう。」
だろうな。私も含めて、歴史好きになった奴の多くはこの時代に触れた奴だろうと思っている。まぁ、私の主観だが。と、いけない。考え事をしているうちに聞き逃していた。ジョシュアは舟をこいでいる。
「・・・・・・ですので、中世末期から近世初期に活動した聖王国騎士団の動きを中心に学んでいく予定です。特に第13騎士団ですね。正式名称の第13騎士団と呼ぶよりは山賊騎士団や野盗騎士団と読んだ方が通りが良いかもしれません。・・・・・・」
そう、それを聞きたかったんだ。だが、今日はオリエンテーションだ。講義でどんな話をするのかを聞いて終わりなんだろうな。そもそも、オリエンテーションを聞いてから履修届を出すわけで、ここでいきなり講義を始めるのは必修科目だけだろう。
そんなことを思っているうちに、オリエンテーションは終わるらしい。
「では、少し早いですがここまで。興味を持ったのであればこの講義の履修届を出してください。では、解散。」
講義室に集まっていた学生たちがぞろぞろと出ていく。当たり前か。2限が終了したということは、昼飯だ。誰しも食堂が込み合う前に飯を食ってしまおうと思うはずだ。私も隣で爆睡しているジョシュアを起こしてから移動するか。
「ジョシュア。起きろ。講義は終了、昼飯だ。」
「・・・・・・あと10分・・・・・・。」
「私だけで昼飯を食べてもかまわないんだが?」
「・・・・・・わかった。起きる、起きますよ。で、どんな講義だったんだ?どうせ山賊騎士の話をしますよーって内容だったんだろ?」
「そうだが、その山賊騎士団が何をしたかは知っているのか?」
「あー、去年の大河ドラマで見たぜ。たしか、山賊狩りしてとった手柄首を第二王女さまにシューーーーーート。哀れ、第二王女さまは初めての生首に失神。山賊騎士さま大爆笑からの牢屋へシューーーーーート。超エキサイティンってやつ。」
「・・・・・・色々混ざっている上に創作要素も入ってるぞ。まぁいい。食堂へ向かいながら教えてやる。」
そういって、私は歩き出す。
「山賊騎士、もとい山賊騎士団。騎士団なんて名称にわざわざ山賊なんていう結びつかない単語をつけて呼ばれる理由。色々な説があるが、私は山賊並みに荒っぽい戦い方をしたというのが理由だと思う。他には身分が低い者たちをまとめて第13騎士団に放り込んだからその蔑称として呼んだとか、第13騎士団創設前に王が発した唯才令を逆手に取って山賊が志願してきて騎士に取り立てられたからとかあるが。」
「さすがに山賊が志願してくるって無いだろ。現代で言えば、銀行強盗したその足で警察官採用試験の願書くださいって警察署に行くようなもんじゃねぇか。その場でつかまって終わりだろ。」
「そうなんだがな。第13騎士団の団長、アクスについては、とにかく出自に関する史料がない。だから、団長になった以降の話しか分からないわけだ。ただ、出自に関する史料が無いってことは、騎士や貴族階級の生まれではなかったんだろうな。まぁ、分からない部分について色々話をしても仕方ないし、彼が他国と最初に関わった事件ついて話そうか。もっとも、そこで武名を上げたというよりは、大戦争の引き金になったという部分が強いのだが。」
などと言いながら食堂へ到着し、その込み具合に辟易するのだった。
近況記事に物語に関わる範囲の簡易地図を公開しておきます。位置関係が分かりにくいと思ったかたは、そちらをご覧ください。
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