神様のあとしまつ ~雛鳥ユリカと旧型アンドロイドの事件ログ~

いえな

プロローグ

プロローグ

 二十歳、大学二年生の終わりの春、僕は雛鳥ユリカと出会った。


 旧型アンドロイドの最期を見届ける『鎮魂者(レクイエスカート)』を名乗った彼女は、アンドロイドの活動を停止させる無慈悲な役回りでありながら、この世界の誰よりもアンドロイドを愛した少女だった。


 心を持たぬアンドロイドを「友人」と呼ぶことに意味があるのか。そう言って誰かが嘲笑するたび、彼女は何食わぬ顔でそれを笑い返した。


「そもそもね、人に心があるという主張だって、ぼくたちの願望に過ぎないんだよ。科学的には未だなんの証拠もない。人でさえそんな曖昧なのだから、アンドロイドに心があると主張するのだって、ぼくたちの自由だろう?」


 雛鳥ユリカはいつだって、最後に心や愛を持ち出した。

 時に探偵のようにトリックを見破り、時に学者のように科学的なエビデンスを並び立てるくせに、最後の最後でいつも理屈を放棄した。

 けれど、それが彼女の中での正解であり、人工物への最大限の敬意だった。


 彼女は探偵でも学者でもない。ただのアンドロイドの友人だ。

 じきに朽ちることを運命づけられた旧型アンドロイドの滅びの声に耳を傾け、その最期を見届ける。

 彼らの生きた証を、せめて自分だけは覚えていようと記憶に刻み込む。

 両手を組み、彼らが安らかに眠れるよう、祈りを捧げる。


 これから振り返るのは、僕が雛鳥ユリカと出会った、あの春の記録だ。

 生きる理由を失った僕に差し伸べられた小さく柔らかい手、出会いの季節の記録。

 そして、それまでの僕が愛したすべてにさよならを告げた胸の痛み、別れの季節の記録。

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