第38話、復興作業
「大丈夫だ。元気に暴れている」
「……良かった」
ゼリゼの首に両腕を回して抱きつく。
今なら、セレナが言っていた〝アクアマリンのネックレスが導いてくれる〟と言った本当の意味が分かった気がする。それはきっとレジェを封じる事を指していたのだ。
「……」
マギルは色々な意味で凹んでいて、皆と遅れながらも、無言のままマーレゼレゴス帝国へと帰って行こうとしている。
しょんぼりした後ろ姿を見て、玲喜は何だか悪い事をしたような気になった。
「マギルごめんな……色んな意味で」
一応謝罪の言葉を口にする。
「あー、良いよ玲喜なら」
マギルが後ろ手に手を振り、肩を落としたまま帰って行った。
「少し歩くか?」
「うん、ありがとうゼリゼ」
相変わらずの田舎具合だが、住み慣れていた空間は心地いい。
「アタシは此処で待ってるからごゆっくり~」
「分かった。一回りして戻るから」
リンにも手を振って、玲喜とゼリゼは久しぶりの日本の地に歩を進めた。
「玲喜、くん? もしかして玲喜君なのか?」
「交番のおじさん……」
もう既に定年退職していたが、近くに住んでいたのもあり、たまたま出会した。
玲喜とゼリゼを見て、そのままの姿なのに驚いたものの、元警官は喜んで泣き崩れた。
その時に、玲喜はその後の経過を知る。
日本では、玲喜は失踪扱いされており、交番にいた警官がゼリゼを覚えていたのもあって、二人とも事件に巻き込まれたのではときちんと捜査されていた。
しかし強盗や事件への関連性は薄く、いつしか神隠し扱いとなっていたようだ。そんないわく付きかもしれない場所を買い取る物好きはいない。家の売却の話は瞬く間になくなってしまったらしい。
当時の元警官にも手を振って、家に戻る。もう古くなって埃と泥のようなものに塗れていたが、玲喜は家中にあった喜一郎やセレナの荷物を魔法で綺麗にしてから宙に浮かせた。
引っ越しにも魔法は便利だった。そしてゼリゼと共にマーレゼレゴス帝国へと帰る。その日から、ゼリゼと玲喜も城の再建に取り掛かった。
復興作業から数ヶ月後。短い期間にもかかわらずに、もう殆どが形になっている。
「ちょっとマギル、サボり過ぎじゃなーい?」
ジリルの声掛けにマギルが面倒臭そうにため息をついた。
「はいはい。やればいいんだろ! ていうかあのバカップルも同じだろう!」
「な~に言ってるの。玲喜もゼリゼもさっきまで働いてて~、今休憩してるだけだよ。はい、早く動いて~。マギルの風であれ全部組み立ててよ~? 僕も疲れたから一旦休憩~」
ジリルがなんて事ないように、離れた場所にある王宮を指差す。東京ドーム程ある面積を見て、マギルが憤慨した。
「おれの仕事多すぎんだろ!」
「サボった罰だよ~。街の人たちも手伝ってくれてんだからさ、ほら早く行きなよ~」
ふふん、と鼻を鳴らしたジリルが木陰に入った。
「分かったよ。行けばいいんだろ、行けば!」
「ジリル様、お飲み物をお持ちしました」
「ラルありがとう」
ヘラリと笑い、ジリルが飲み物を受け取る。左斜め横に視線を流すと、ゼリゼにもたれ掛かって寝ている玲喜の姿が映る。玲喜の腹は膨らんできていて、それを見たジリルが笑みを溢す。
「あの二人にはもう持って行ったの~?」
「ええ。玲喜様にはいつものシェフ特製ジュースです」
玲喜の前で〝様〟をつけると嫌がれるので呼び捨てにしているが、玲喜が聞いていない時は、さすがに〝様〟をつけるようになっていた。
「あれ美味しいもんね~」
「そうですね。初めて飲んだ時は驚きました……私の喉が」
「喉か~」
ジリルが笑った。
完成間近の城をラルは見渡す。王宮はマギルが文句を言いながらもやる気を出したので、街の人たちと一緒に今日中にでも仕上げるだろう。やる時はやる男だ。
あの事件以来、マーレゼレゴス帝国は変わった。
王は既に殺害されていて、皇后たちも側室合わせて全員殺されていた。知らない内に別の人物が成り代わっていたという事実があったのが大きい。
そして、城も王宮も、全リミッターを解除された玲喜やゼリゼ……ジリルが放った特大級クラスの魔法でレターナ諸共消し飛んだのが衝撃的だったらしい。
その一方で、人々は途方にも暮れ、ただただ立ち尽くして見ているだけしか出来なかった。
しかし、皇子たちや城の者たちが無事に次々と帰還した事に皆喜び、一緒に城の再建活動に乗り出したのだ。
そして、自称慈善事業をしていた教会はいつの間にか〝猫ランド〟という癒しスポットと化し、その隣に新しい孤児院と病院施設が出来た。
スポンサーは王族や地域の貴族だ。
大きな病を抱える者は玲喜が診て、全て治して回っている。
それ以来、聖女再臨として崇められ、玲喜はマーレゼレゴス帝国において無くてはならない存在になっていった。
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