第46話 娘の死

### 永禄12年の戦国模様


永禄12年5月(1569年)、徳川家康(神木隆之介)は今川氏との和睦を結び、駿河侵攻から離脱する決断を下した。この動きは、甲州と東海道の情勢に大きな影響を与え、武田信玄(阿部寛)にとっては新たな局面を迎えることとなった。


#### 家康の和睦と信玄の思惑


家康が今川との和睦を果たすと、信玄はこの機会を利用して状況を整えようとした。彼は、信長(松田龍平)と足利義昭(佐々木蔵之介)を通じて越後上杉氏との和睦を試みることを決める。信長が足利義昭を奉じて上洛している中、信玄は信長の力を借りることで上杉氏との関係を改善することに成功した。


永禄12年8月、甲越和与が成立し、信玄は越後との戦争を避け、他の敵への圧力を強める道を選んだ。この和睦により、信玄は信長との連携を強化しつつ、後北条氏への圧力を加える布陣を整えた。


#### 後北条氏への圧力


信玄は、越相同盟に対抗するため、常陸国の佐竹氏や下総国の簗田氏など、北・東関東の反北条勢力との同盟を結び、後北条領国に圧力をかけていく。永禄12年10月、小田原城を一時包囲する戦を展開し、その際の撤退戦では三増峠の戦いで北条勢を撃退することに成功した。


この戦いにより、武田軍は後北条氏に対する優位を確立し、北条綱重の守る蒲原城への攻撃を成功させることができた。この結果、後北条氏は上杉・武田との関係回復に方針を転じざるを得なくなった。


#### 信玄と益子勝宗の親交


また、信玄はこの年に下野宇都宮氏の家臣、益子勝宗(阿南健治)との親交を深めることも重要な出来事だった。勝宗は信玄による西上野侵攻に呼応して出兵し、軍功を上げる。信玄は彼の貢献を称え、感状を贈ることで、彼との関係をさらに強化した。


#### 駿府侵攻の再開


そして、永禄12年末、信玄は再び駿河侵攻を行い、ついに駿府を掌握した。信玄の巧妙な外交と軍事戦略は、彼の領土を拡大し、敵勢力を圧倒する手助けとなった。この成功は、信玄の名声を一層高め、武田家の地位を強固にする要因となった。


### 結論


こうして永禄12年は、武田信玄にとって新たな戦略と連携を築く重要な年となった。彼の巧妙な外交術と軍事行動は、戦国時代の激動の中で生き残るための道を切り開いていったのである。


 ### 信玄と黄梅院の悲劇


永禄12年(1569年)末、武田信玄は再び駿河侵攻を成功させ、その後の安定を望んでいたが、信玄の周囲には次第に不穏な影が忍び寄っていた。彼の戦略的な動きと外交努力が実を結びつつある中、信玄の私生活にも影響を与える出来事が待ち受けていた。


#### 黄梅院の病


黄梅院(當真あみ)は、信玄の治世において重要な存在であった。しかし、彼女は徐々に病に冒されていった。その症状は、初めは軽い風邪のようなものであったが、次第に重症化し、彼女は小田原に住むことになった。この頃、信玄は軍事行動と政治的交渉に追われ、娘の容体を気遣いながらも十分な時間を取ることができなかった。


#### 信玄の心の葛藤


信玄は、軍の指揮を執りながらも、心のどこかで黄梅院のことを常に考えていた。彼女の病状が深刻であると報せを受けた信玄は、戦の合間を縫って小田原に向かう決意を固めた。しかし、彼が到着する頃には、既に黄梅院の状態は非常に危険なものになっていた。


#### 最期の時


小田原の病床で、黄梅院は静かに息を引き取った。信玄は彼女の最期を看取ることができたものの、その時の彼の心情は複雑だった。愛する娘の死を前に、彼は戦国の世で数多の敵と戦い、数多の勝利を手にしてきたにもかかわらず、この敗北は計り知れない悲しみをもたらした。


#### 黄梅院の葬儀


黄梅院の葬儀は盛大に執り行われ、信玄は彼女のために全力を尽くした。武田家の人々や信玄の支持者たちが集まり、彼女の生涯を偲んだ。黄梅院の死は信玄にとって大きな打撃であり、彼の心に深い傷を残した。


#### 信玄の決意


黄梅院の死を受けて、信玄は心を新たにした。彼は自身の信念と武田家の未来を守るために、戦い続けることを誓った。彼の心の中で娘の存在は消えず、彼女のために戦い続けることで、信玄は彼女の死を無駄にしないと決意したのだった。


この悲劇的な出来事は、信玄の人生において重要な転機となり、彼の戦略と決意に影響を与えることとなった。黄梅院の死は、信玄にとって戦国の厳しさを改めて実感させるものであり、彼の戦いはさらに熾烈さを増していくことになる。


 甲斐国の生まれ。天文20年(1551年)8月頃より、武田氏・後北条氏・今川氏の甲相駿三国同盟のために、武田氏と後北条氏との間で婚姻交渉が進められ、北条氏康の嫡男・西堂丸に嫁ぐことになった。ところが、元服して氏親と名乗った西堂丸は天文21年(1552年)3月に16歳の若さで急死してしまう。このため、武田氏と後北条氏の間の婚約は一旦白紙になってしまい、氏康は信玄に対して新しく後継者に決まった次男の松千代丸(後の氏政)との婚約を申し入れることになった。信玄もこの要望を受け入れて、天文22年(1553年)正月、氏康と信玄との間で婚約のやり直しに関する起請文を交わされている。松千代丸は天文23年(1554年)の正月頃に元服して氏政と名乗り、婚姻の環境が整うことになった。


 天文23年(1554年)12月、氏政の元に嫁ぐことになり、その輿入れ行列は、1万人もの供の者が付き従い、大変豪華であったと伝えられている。また、信玄は彼女のために、弘治3年(1557年)11月には安産の神である「富士御室浅間神社」に安産祈願をしており、子煩悩であったことが覗える。


 弘治元年(1555年)に12歳の若さで新九郎 (夭折)、弘治3年(1557年)末頃に芳桂院(千葉邦胤室)、永禄5年(1562年)に、嫡男・氏直、永禄9年(1566年)竜寿院を産むなど夫婦仲は良好であった。


しかし、永禄11年(1568年)12月13日、父の信玄の駿河侵攻により三国同盟は破綻する(兄・義信はこの過程で信玄に廃嫡される)。


信玄の駿河侵攻に激怒した氏康は黄梅院を甲斐に送り返した。その際、氏政からは堪忍分として16貫文余を与えられている。


夫・氏政と離縁し、しばらくは鬱々とした日々を送っていたと思われるが、甲府の大泉寺住職の安之玄穏を導師に、出家したとも言われる。


そして永禄12年6月17日、27歳で死去した。


 ### 芦ノ湖の悲劇と毒龍の出現


 永禄12年の冬、信玄の娘である黄梅院の死は、武田家にとって深い悲しみをもたらした。信玄の妻、三条殿は特に心の痛みを抱え、彼女の死を受け入れられずにいた。


#### 芦ノ湖の静寂


 芦ノ湖のほとり、凍てつく寒さの中、三条殿は黄梅院の思い出に浸りながら涙を流していた。湖面は静かに凍りつき、周囲は雪に覆われた美しい景色であったが、彼女の心には暗い影が落ちていた。黄梅院が生前に語った夢や希望が、今は遥か彼方のものに思えた。


#### 毒龍の出現


 そんな三条殿の前に、突如として異様な気配が漂った。湖面が波立ち、空が暗くなると、巨大な毒龍が姿を現した。その龍は九つの頭を持ち、各頭からは緑色の煙が立ち昇り、周囲を毒気で包み込んでいく。毒龍は、黄梅院の死に対する三条殿の悲しみを嘲笑うかのように、低い唸り声を上げた。


#### 三条殿の決意


 恐怖に震える三条殿であったが、愛する娘のために何かをしなければならないと感じた。毒龍の出現は、単なる悪夢ではない。彼女は、この龍が黄梅院の死に関係しているのではないかと直感した。三条殿は心を奮い立たせ、戦う決意を固めた。


「私の娘を奪った者よ、許すことはできぬ。たとえこの命を失おうとも、私は戦う!」


#### 決戦の始まり


 三条殿は、身の回りにあった氷の破片を手に取り、毒龍に立ち向かう準備をした。彼女の心の中には、黄梅院の愛が宿っており、その想いは彼女を強くした。毒龍は、その存在感を示しながら、三条殿に襲いかかる。


 三条殿はその姿をしっかりと見据え、氷の破片を投げつけた。龍の一つの頭が傷つき、毒の煙が一瞬止まる。しかし、他の頭が怒り狂い、三条殿に向かって攻撃を仕掛ける。


#### 最後の戦い


 壮絶な戦いが繰り広げられ、三条殿は毒龍の動きを読みながら、彼女の信念を貫いた。彼女の心の強さと、黄梅院への愛が力となり、毒龍に立ち向かう姿はまさに母の力そのものであった。


 ついに、三条殿は毒龍の一つの頭を討ち取り、その瞬間、他の頭たちも怯む。龍の背後には、黄梅院の姿が一瞬だけ見えた。母の力強い決意を感じたのか、黄梅院の魂が微笑むかのように見えた。


#### 終息


 毒龍は、徐々に力を失い、最後には消え去った。三条殿は倒れ込んだが、彼女の心には黄梅院の存在がいつまでも生き続けていた。芦ノ湖は再び静寂に包まれ、三条殿は彼女の娘に捧げる新たな決意を胸に、これからの道を歩み始めたのだった。

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