第24話 父の死

 時が流れ、甲斐の国は新たな春を迎えた。武田晴信(生田斗真)の政治手腕によって、民衆は少しずつ平穏を取り戻しつつあった。甲府城では、さらに先を見据えた新たな議論が展開されていた。



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場面:甲府城、城の庭


 晴信と重臣たちが広い庭を歩きながら、今後の戦略を話し合っている。桜が満開の庭は、戦国の時代とは思えないほど平和な光景を描き出している。



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板垣信方(キャスト: 國村隼)「晴信様、北の上杉家の動きが気になります。越後から何らかの攻勢があるやもしれません。」


武田晴信「上杉謙信か…奴も優れた武将だ。だが、我らにはまだ備えが十分ではない。農政改革の完成を急がねばならん。」


甘利虎泰(キャスト: 陣内孝則)「我らの領地内での反乱も、まだ燻っております。民の信頼を得るには、さらなる施策が必要でしょう。」


晴信「その通りだ。まずは内政を固め、次に戦を視野に入れる。上杉とはいずれ決着をつけねばならぬが、時期を誤ってはならぬ。」



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庭に立ち止まり、晴信は桜の花びらを見つめる。かつての父、信虎のやり方とは異なる方法で、この国を治める覚悟を改めて決意する。



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晴信「父上のやり方を否定するつもりはない。だが、俺には俺のやり方がある。戦だけではなく、民の力こそが国を強くするのだ。」



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場面:駿河の山道、信虎の道中


追放された信虎は、駿河への道を静かに進んでいた。険しい山道を進む中で、かつての領地や家族への思いが複雑に絡み合う。



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武田信虎(キャスト: 柴田恭兵)「晴信…お前にはあの国を託した。俺が果たせなかったことを、お前がやり遂げられるか、見てやるつもりだ。」



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信虎は馬に乗りながら、静かに遠くの甲斐を見つめた。その瞳には、かつての厳しさが残るが、どこか穏やかなものも混ざっていた。



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場面:甲府城、城内の会議室


重臣たちが集まり、戦略会議が行われている。板垣信方が地図を広げ、次の戦略を説明している。



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板垣信方「上杉との戦いに備え、我らは西の今川とも連携を取る必要があります。駿河国との関係を強化し、越後の脅威に備えましょう。」


晴信「その通りだ。今川義元との同盟を強化し、上杉謙信の進出を封じ込める。我らは戦に勝つだけでなく、国を守るための戦略を作るのだ。」



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家臣たちは晴信の言葉に力強く頷き、新たな戦国の波が甲斐国を襲うことを予感しつつも、希望を胸に秘めていた。



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キャスト


武田晴信(信玄)

若きリーダーとして、父とは異なる道を選びながらも、国を守るために苦悩する姿を生田斗真が繊細に演じる。


板垣信方

晴信の忠実な重臣として、知略と忠誠心を持って武田家を支える。


甘利虎泰

武田家の実力派重臣として、冷静な判断と武力で晴信を支える。


武田信虎

強権的なリーダーから追放された信虎を、柴田恭兵が老獪な演技で演じる。



物語は、武田家の内政と外敵との戦略を軸に、新たな時代の幕開けを描きながら進んでいく。




大寧寺の変 - 本編



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1551年9月、大内氏館


夕暮れの大内氏館に、不穏な空気が漂っていた。家臣たちは、陶隆房(晴賢)の謀反の知らせに顔を曇らせ、廊下を行き交う武士たちは無言で急いでいる。大内義隆は、かつての栄光を思い出しながら、次第に現実に追い込まれていた。



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場面:義隆の居室


義隆(キャスト: 藤原竜也)は静かに座り、茶を飲みながら遠い目をしている。彼の前には、冷泉隆豊(キャスト: 中村獅童)と内藤興盛(キャスト: 竜雷太)が座り、緊迫した表情で報告を続けている。


冷泉隆豊「殿、陶の軍勢が山口に迫っております。陶は殿の命を狙っていると確実な報が入っております。」


大内義隆「陶が…あの陶が本当に謀反を?…私は彼に恩を与えたはずだ。どうしてだ…なぜだ?」


内藤興盛「義隆様、陶は近年、殿の政への関心の薄さを不満に思っておりました。出雲遠征の失敗以来、文治派を重用し、武功派を遠ざけたことが、彼の逆心を引き起こしたのでしょう。」


義隆は天井を見つめ、ため息をついた。かつて、彼は一度西国を制圧し、その力を誇っていた。しかし、出雲遠征の大敗からすべてが狂い始めた。彼は学問や茶の湯に逃げ込み、政務に背を向けるようになった。だが、それは家臣たちを失望させ、内部分裂を招いた。


大内義隆「私は戦を嫌った。戦国の世で多くの血を流すことが、果たして正しいのか…それを考えたのだ。しかし、それが過ちであったのか?」


冷泉隆豊「殿、時代が殿の志に追いついていないのです。この混乱の時代では、力を示すことこそが支配の証となります。」


義隆はその言葉に耳を傾けながらも、彼の心には別の思いがあった。戦に明け暮れる世の中で、何か違う道はないのかと、彼は常に考えていた。しかし、家臣たちや周囲の人々は、そんな彼の理想を理解してはくれなかった。



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場面:大寧寺


山口から逃げ出した義隆一行は、夜の大寧寺に辿り着く。義隆の表情は落ち着いていたが、その内心には激しい葛藤があった。冷泉隆豊と内藤興盛は、最後の手段として自害を勧める。


冷泉隆豊「殿、もはや逃げ道はございません。ここで潔く自害なさり、武士としての名誉を保たれるべきかと…」


大内義隆「そうか、ここまでか…。かつては天下を制する力を持っていたが、もはやそれも夢のようだ。」


義隆は刀を手に取り、じっと見つめる。彼の目には、かつての仲間や家臣たちとの日々がよみがえり、また家を守ろうとした自身の無力さに涙が浮かんでいた。


大内義隆「陶がこの後どうするかは知らぬが、私の死が少しでも争いを鎮めるなら、それでよい。」


冷泉隆豊と内藤興盛は静かに頭を下げ、義隆が最後の決断を下す姿を見守っていた。夜風が寺の中に吹き込み、義隆の髪を揺らす。



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場面:外の陶軍


一方、大寧寺の外では、陶隆房(キャスト: 堤真一)が軍勢を率いて静かに待っていた。彼は大内義隆の死を確信し、すでに次の策を練っていた。


陶隆房「義隆様、これで終わりです。あの方が追い求めた平和は、今の時代には不相応だ。」


内藤興盛の部下が寺から出てきて、静かに陶に告げた。


内藤興盛の部下「義隆様は…自害されました。」


陶は短く頷き、しばらく何も言わなかった。やがて、彼は冷たい口調で呟いた。


陶隆房「これで西国は私の手に落ちた。しかし、戦はまだ終わらない。時代が私に、さらなる血を求めている。」


大寧寺の変 - 三条公頼の最期



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1551年9月、大内氏の屋敷にて


陶隆房(晴賢)の謀反が明らかとなり、大内義隆の家臣たちは戦乱の嵐に巻き込まれていた。三条公頼(キャスト: 佐藤浩市)はその一人であり、義隆の側近として長年仕えてきた。しかし、運命の大寧寺での戦いが、彼の生涯に幕を下ろすことになる。



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場面:大内氏館の三条邸


三条の妻(キャスト: 松たか子)と娘、竹(キャスト: 新垣結衣)は、不安な表情を浮かべ、戦の音を耳にしていた。窓の外には、戦火の影が迫っていた。


妻「公頼様、どうかご無事で…」


娘は母に寄り添い、ただ祈ることしかできなかった。三条は大内義隆に忠誠を誓い、出陣する直前、家族に別れを告げていた。


三条公頼「私は義隆様のために命を捧げる覚悟だ。だが、これが最後の別れになるかもしれぬ。どうか、強く生きてくれ。」


その言葉に妻は涙をこらえ、微笑んで見送った。しかし、心の中では不安と悲しみが渦巻いていた。



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場面:大寧寺の戦場


三条公頼は、敵に囲まれた義隆の元へ駆けつけるべく奮闘していた。陶の軍勢が圧倒的な力で押し寄せ、次々に味方が倒れていく中、三条は剣を振るい、奮戦していた。しかし、彼の周囲は敵兵で埋め尽くされていた。


陶隆房の兵士「三条公頼か!討ち取って、義隆を孤立させろ!」


刃が交錯し、三条は最後の力を振り絞って戦い続けた。しかし、多勢に無勢、彼の体力は尽きていき、ついに敵の矢が彼の胸を貫いた。


三条公頼「義隆様…どうかご無事で…」


彼は倒れ、静かに息を引き取った。その場に倒れた三条の姿は、戦乱の中で一瞬、静寂をもたらしたようだった。



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場面:三条邸


その夜、三条の戦死の報が、妻と娘の元に届いた。妻は報せを受け取ると、手が震え、やがてその場に膝をついた。娘は何が起こったのかすぐには理解できず、ただ母の姿を見て涙を流した。


妻「公頼様…なぜ…なぜこのような運命に…」


彼女は声を押し殺し、涙を流しながら、その場に座り込んだ。娘もまた、父の死を知り、震えながら母に抱きつく。


娘「お父様…もう一度、会いたかった…」


悲しみは三条家に深い影を落とし、母と娘は夜通し泣き続けた。戦乱の世の中で、忠義を貫いた夫と父の死は、彼女たちにとってあまりにも残酷な現実であった。



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エピローグ


三条公頼の死は、義隆に仕えた家臣たちの悲劇の一部にすぎなかった。彼の忠義と奮闘は無駄に終わり、家族には深い悲しみだけが残された。陶晴賢の謀反は成功し、戦国の荒波はさらに激しさを増していった。


妻と娘は、戦火の中で家族を失いながらも、亡き夫と父の名誉を胸に生き続けることを決意した。しかし、彼女たちの心には、二度と消えることのない傷が刻まれていた。



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 大内義隆の死は西国の支配構造を大きく変えた。陶晴賢はその後、西国を支配しようとするが、彼の道はまた戦の渦に巻き込まれていくことになる。一方、義隆が夢見た平和と文化は、時代の波に飲まれて消え去っていった。



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