こんな大河ドラマが見たい③ 『武田信玄の夫人、三条殿』

第5話 蟹坊主

### 場所：甲斐国・長源寺、大永年間（1521年頃）

ある日、長源寺では静寂な境内に異変が訪れた。僧侶たちが朝の勤行を行っている最中、突然、強い風が吹き荒れ、鐘の音が不気味に響き渡った。信徒たちは恐れを抱きながらも、平静を保とうとしていたが、その時、境内に現れたのは「蟹坊主」と呼ばれる妖怪だった。

蟹坊主は、蟹のような姿をした妖怪で、特に田畑や水辺に現れ、災厄をもたらす存在として恐れられていた。彼は人々の前に立ちはだかり、低い声で語りかける。

**蟹坊主**：「人間たちよ、私を恐れずにいられるか？今、お前たちの運命が揺らいでいる。」

僧侶たちはその姿に怯えながらも、長源寺の守護を誓う者として毅然と立ち向かう。

**僧侶**：「この地は仏の教えが満ちている。お前のような妖怪が恐れをなすことはない。帰れ、そして二度と現れるな。」

蟹坊主は笑い声を上げ、周囲の空気をさらに不気味に変えていく。

**蟹坊主**：「この世の無常を知るがよい。人間の業を背負った者たちには、必ず報いがある。武田家も例外ではない。」

その言葉に、僧侶たちはさらに不安を覚える。武田家の戦乱の影響を感じていた彼らは、蟹坊主の言葉が何を意味するのか、心にひっかかる思いが募る。

### 蟹坊主の警告

**蟹坊主**：「この先、戦の嵐が甲斐を襲う。その時、どれだけの者が生き残れるか…楽しみにしているぞ。」

そう言い残すと、蟹坊主は風に乗って姿を消した。境内には再び静寂が戻ったが、僧侶たちの心には恐怖が根付いた。

**僧侶**：「蟹坊主の警告が現実となるのか…我々はどうすれば良いのか。」

長源寺の僧侶たちは、蟹坊主の言葉を真摯に受け止め、武田家の行く末を案じるようになった。彼らは信虎と大井夫人、信玄の運命を守るため、仏の加護を求める決意を新たにするのだった。

### 新たな決意

その後、僧侶たちは毎日、戦乱から家族を守るための祈りを捧げることを決めた。信仰の力を信じ、蟹坊主の警告を無にするために、彼らは一丸となって神仏にすがりつく。

**僧侶**：「我々は決して怯むことなく、信仰の力を信じて、この地を守り抜くのだ。」

こうして、長源寺は武田家と甲斐の未来を守るための重要な拠点となり、戦の影が忍び寄る中、静かに決意を固めていくのだった。

### 場所：甲斐国・身延山、富士山、大永年間（1522年頃）

大永2年、武田信虎は今川勢を撃退し、その功績を祝うために家臣とともに身延山久遠寺へ参詣した。彼の心には、戦の疲れを癒すと同時に、武田家の地位を確立するための宗教的な意義があった。

#### 身延山参詣

長い参道を進む中、信虎は静寂な山の空気に包まれ、自身の思索にふける。信仰の力が、武田家にどれほどの影響を与えるかを考え、未来の安定を願った。

**信虎**（心の中で）：「この地で祈りを捧げることで、我が家の運命を導いてくれるはずだ。」

久遠寺に到着すると、僧侶たちが温かく迎え入れ、御授法を受ける儀式が始まった。信虎はその姿勢を正し、心を落ち着け、仏の教えを受け入れる準備を整える。

**僧侶**：「ここに集う皆に、仏の加護が与えられますように。」

#### 富士登山

参詣を終えた信虎は、次に富士山への登山を決意する。彼は、武士としての力を示すとともに、信仰を深めるための行為であると理解していた。登山は厳しいものであったが、信虎は家臣たちと共に山道を進み続ける。

**信虎**：「この山を巡ることで、我が心もまた清められる。全ての者に平和をもたらすために、我が力を尽くすのだ。」

富士山の頂上に達すると、彼は八葉を見立てた「御鉢廻り」を行う。高所からの景色は壮大で、信虎はその光景に感動を覚えながら、心の中で願いを込めた。

**信虎**（声を低くして）：「この地を守り、家族を守るために、力を与えてください。」

信虎の行為は、信仰の力を武器にし、武田家の安泰を願うものであった。彼の行動は、戦国の世における政治的示威行為とも見なされ、今後の信虎の道筋を示すこととなる。

### 大泉寺の建立

大永2年、信虎は甲府に大泉寺を建立し、国内の僧侶を集めて夏安居を開催した。これは信虎の宗教的信念の一環であり、武田家の強化を図るための重要な施策であった。

**信虎**：「この寺が私たちの心の拠り所となる。平和と繁栄をもたらすために、共に学び、信じ合おう。」

僧侶たちは、信虎の言葉に賛同し、寺を中心に地域の信仰を育むことを誓った。信虎の行動は、単なる戦国の動乱の中での戦術ではなく、精神的な基盤を築くためのものだった。

### 未来への希望

信虎の身延山参詣と富士登山、そして大泉寺の建立は、武田家にとって大きな転機を迎える予兆であった。彼の心には、戦乱の世を生き抜くための強い決意が宿っていた。

**信虎**（心に決めて）：「この地を、家族を、武田家を守るために、どんな困難も乗り越えてみせる。」

こうして、信虎は自身の地位を確立し、家族と武田家の未来を見据えた。彼の信仰と行動は、甲斐の地に新たな風を吹き込むのだった。

### 場所：躑躅ヶ崎館、大井夫人の回想

秋の風が静かに吹き抜ける中、大井夫人は信玄の寝室を見守りながら、ふと若い頃の思い出に耽っていた。彼女の心には、信虎との出会いや、二人の愛情が温かくよみがえってきた。

### 若き日の出会い

数年前、まだ若く美しかった大井夫人は、甲斐の国にある一族の娘として育っていた。ある日、家族の宴で信虎と出会った。

**大井夫人**（心の中で）：「あの時の信虎は、まだ若く、初々しい剣士だった。まるで太陽のように輝いていて、周囲を惹きつける魅力があった。」

信虎は武士としての誇りを胸に、周囲に強い存在感を示していた。彼の目は真剣で、未来の甲斐を背負う決意が感じられた。

### 情熱と決意

数度の交流を経て、二人の距離は次第に縮まっていった。信虎は大井夫人に対し、家族や国を守るために戦う覚悟を語った。

**信虎**：「私は甲斐のため、そしてお前のために戦う。私が強くなることで、皆が幸せになるのだ。」

その言葉に大井夫人は心を打たれ、彼に惹かれていった。

### 結婚と家族の誓い

二人はやがて結婚し、信玄を授かることとなった。信虎との家庭生活は、初めは希望に満ちていた。しかし、次第に戦乱の影が忍び寄ってきた。

**大井夫人**（思い返して）：「信虎はいつも戦に出ていた。私の心配をよそに、甲斐を守るために全力を尽くしていたわ。」

### 愛と苦悩

彼女は信虎が戦う姿を見ながら、時に不安を感じることもあった。しかし、信虎の強さや誠実さに支えられ、彼女もまた家族を守るために強くなることを誓った。

**大井夫人**（自らを奮い立たせるように）：「私はこの家を守るために、どんな困難にも立ち向かう覚悟がある。信虎が戦う限り、私もその背を支え続ける。」

### 過去の教訓

若き日の信虎との思い出は、大井夫人にとってかけがえのない宝であった。彼女は今、信玄を育てながら、夫との愛情を胸に秘め、家族の未来を見据えていた。

**大井夫人**（微笑みながら）：「信虎、あなたがいてくれたからこそ、私は今もこうして強く生きていられる。これからも、私たちの子供を守り、甲斐の未来を支え続けます。」

こうして、大井夫人は信虎との若い頃を思い出しながら、再び信玄の成長を見守る決意を新たにしたのであった。