たもつくん 第二話

 たもつ君は僕と同じ作業所に通うメンバーの一人である。知的障害があるため就労ではなく作業所へ通うことになったのだろうというのが作業所に通う人の共通認識だ。年齢はおそらく30歳前後だと思われる。

 作業所に通所することで社会的居場所を作り、精神面を安定させようということだろう。もっとも、本人も作業所生活を割と楽しんでいる様子である。作業所のメンバーもそんなたもつ君を好意的に受け入れている人が多い。そういった意味でたもつ君と作業所の関係はとても良好だといえる。


 僕とたもつくんは同じグループになって作業をしたことをきっかけに話すようになった。グループは三人グループでもう一人は女性のあげはさんという人だった。僕は同じグループになってもあげはさんとはあまり話さなかったが、たもつ君は男女分け隔てなく話す人で、僕たち三人はたもつ君を中心によく話しをするようになっていった。


 彼は宇宙の話がとても好きで我々にいろいろなことを教えてくれた。

「金星の平均気温は480℃もあり、硫酸の雲から降る雨は地上につく前に蒸発してしまうという地獄のような惑星である話」とか

「角砂糖一個分の重さが10億トンもある中性子星の話」とか

「40億年後にはアンドロメダ銀河と天の川銀河が合体する話」とかそんな話だ。

 僕とあげはさんはどの話も興味深く聞いていたがその中でも一際面白かったのが

「宇宙は今現在も広がっているがいつか、伸びたゴムが縮むように宇宙も縮んでいく」

という話だった。縮んだ宇宙は最終的にすべての物質が一点に集約され再びビッグバンが起こり、宇宙は再度広がっていくというものだ。仏教に輪廻転生という考え方があるが宇宙規模の輪廻転生と考えるとなんだか面白い。


 宇宙は一度死にました。しかし、大爆発から生まれ変わったのです。

新しい宇宙はロボットが意思を持つ世界で彼らが文明を築いています。

神話にしてもいい話だ。


 あげはさんは生まれ変わった宇宙は今と同じような宇宙なのかということに関心があったらしくたもつ君にそのことを聞いていた。答えは「わからない」としごくまっとうなものだった。

 僕はロボットが支配する宇宙になる可能性を聞いてみたが「そうなれば面白いね」という答えしか返ってこなかった。そりゃそうだ。僕もそうなれば面白いなとしか思わないから。我々とたもつ君はこのように良好な関係を築いていた。


 そんな風におよそ順風満帆だったたもつ君がおかしくなったのは渡辺君という作業所のメンバーともめた後からのように思う。渡辺君はもともとたもつ君の言動にイラついているような節があったが、とあるミーティングでたもつ君が空気を読まず発言してしまったことに対して、声を上げて批判をしたのである。今までたまっていたうっぷんが爆発したのだろう。

 この出来事は割と大ごとになりスタッフは渡辺君に厳しく注意をしたし、たもつ君にも不要な発言をしないようにと厳しめに注意をされた。


 そして、この後からたもつ君の様子がおかしくなったのである。

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