細長い月の夜に 第2話

僕とワタリはただただ夜空を眺めていた。まるでそうすることがことわりであるかのように。


言葉は交わさなかった。


各々、物思いにふけり、時には切ない表情を浮かべている。不思議とワタリにも表情というものがあった。正確には表情があるというわけではないのだが、僕からみたワタリには彼が切ない気持ちであることがわかる。本当に不思議なものだ。


僕はそんなことを考えながらグラスへ手を伸ばし、炭酸水を飲む。


「ずいぶんと物思いにふけっていたようじゃな」


「昔のことを思い出してさ」


「なるほどの」


僕たちはぽつりぽつりと話をする。


「今夜みたいに細長い月を見るとある人のことを思い出すんだ」


「ふむ」


「その人とはメル友で一年くらいメール交換をしていてさ」


「メル友?」


「ペンフレンド、文通相手みたいなものだね。電子的文通相手」


「便利になったものじゃな」

このカラス、現世を知っているようで疎い。


「わしは長い間眠って居ったからな。実は現世のことはあまりわからん」

僕の心を見透かしたようにワタリが言う。


「さっき、現代人は何たらとか話してたけど?」

僕は嫌味を言うも


「カッコつけただけじゃ。おぬしがどんな人物かわからんのでの」

とワタリは空かした顔でいう。食えない烏だ。


「で、その電子的文通相手とやらとどうなったんじゃ?」

ワタリが水を向ける。


「10年も前の話だよ?」


「ふむ、その話、聞かせてくれるか?興味がある」

ワタリの声は優しかった。


僕はゆっくりと当時の話をし始めていた。

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