第42話 霞の視点(6):揺れる私の感情と罪悪感

彩香ちゃん――いや、智也が普段の生活でどれほど完璧に女性として振る舞っているか、誰よりも私が知っている。彼は日常の全ての動き、言葉遣い、仕草まで細かく「彩香」としての役割をこなしていた。その姿は完璧で、普段はどう見ても彼が男性であるとは到底思えなかった。


日々一緒に過ごしている中で、智也はまさに「彩香」として完璧に振る舞っていた。彼の仕草や声、細やかな気配りまで、どれを取っても普通の女子学生と何も変わらない。それに気づかないほかのメンバーたちも、彼を本当に「彩香」として受け入れていた。


私も、普段の彼がいかに「女性」であるかを強く感じていた。彼が男であるという事実を知っているのに、その振る舞いを見るたびに私の中で混乱が生まれた。どうしても頭では理解しているはずのことが、彼の姿を見るたびに曖昧になっていく。


そしてお泊り会の夜、智也が布団に入って眠り始めた時、その混乱は頂点に達した。彼が寝息を立てている姿は、まるで普通の女子と変わらない。普段通りの、穏やかな寝顔だった。でも、その瞬間、私の中で抑えきれない衝動が芽生えた。


「本当に、彼が男の子なんだろうか…?」


その疑問が、私の中でぐるぐると巡り始めた。普段は完璧に女性にしか見えない彼。でも、実際は違う――その事実を改めて確かめたいという気持ちが強くなっていった。


私は、心の中で何度も躊躇したけれど、どうしてもその衝動を抑えることができなかった。静かに、周りのメンバーが寝静まっているのを確認しながら、私は彩香ちゃん――智也の布団に近づいた。


彼が眠っていることを確認し、私はそっと布団の端を持ち上げた。その瞬間、私の心臓は激しく鼓動し始めた。こんなことをしてはいけないと分かっていた。でも、どうしても確かめなければならなかった。


「ごめんね!智也くん」


そして――私は彼のパジャマの下をそっと覗いてしまった。


私の目に飛び込んできたものは、紛れもなく男性の体だった。その瞬間、頭の中が真っ白になり、全ての感情が混乱していった。智也が本当に男であることを、この目で見てしまったのだ。


「やっぱり…男だったんだ…」


私の中で、本物の彩香ちゃんから聞いていただけの情報が確信に変わった瞬間だった。彩香ちゃんが智也として私たちと過ごしていることを理解していたつもりだったのに、こうして直接その真実を目にすると、言葉にできない感情がこみ上げてきた。


私はすぐにその場を離れた。罪悪感が胸の中で膨らんでいく。私は彼の秘密を知っていたのに、どうしてこんなことをしてしまったのだろうか? 彩香ちゃんや彼の信頼を裏切るような行動を取ってしまったことに、強い後悔が押し寄せた。


でも、その一方で、心の中では別の感情も渦巻いていた。智也が「彩香」として過ごしていることの重さを、今まで以上に深く感じ取ることができたからだ。彼がどれだけのプレッシャーを感じながら私たちと接しているのか、そのすべてが鮮明に伝わってきた。


翌朝、私は智也と顔を合わせることができなかった。彼が私の行動に気づいていたわけではないけれど、自分の中での罪悪感が大きすぎて、彼に普通に接することができなかった。


私の中で、彼に対する感情は今まで以上に複雑になっていった。彼が男であることを知りながら、今後どう彼と接していけばいいのか、その答えが見つからなかった。

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