第10話 サークル活動の再開と展示会への準備

霞の家を訪れた翌日、智也は再びサークルの部室へと向かった。霞の体調がまだ回復していないため、彼女は今日もサークルを欠席しているが、彼女が元気になったらまた一緒に活動できるだろうという期待が智也の心の中にあった。


部室に入ると、桜や玲奈たちはすでに展示会に向けた準備を進めていた。他の二人は自分の作品に集中して取り組んでおり、部室内は一種の緊張感に包まれている。


「おはよう、彩香!」


桜が明るく声をかけてくれた。彼女は相変わらず元気いっぱいで、展示会の準備も順調に進んでいる様子だった。智也も自分の作品に取り組もうと、席に座ってスケッチブックを開いた。


「霞ちゃん、早く元気になればいいのにね。」


桜がそう言いながらも、手を動かし続けている。智也は彼女の言葉にうなずきながらも、心の中では昨日の出来事を思い返していた。


「霞、大丈夫かな…。元気そうには見えなかったけど、少しでも力になれたら良かったんだけどな…。」


霞の家で過ごした時間は、智也にとって忘れられない一日となっていた。彼女の弱った姿、優しい微笑み、そしてほんの少し見せた無防備さ。それが智也の心に特別な何かを残していた。


智也はスケッチブックに目を向け、自分の作品に集中しようとした。これまで迷いながら進めてきた作品だが、少しずつ形が見えてきた。展示会に向けて、彼自身も何とか形になるものを作らなければならない。


「自分らしいもの…自分の気持ちを表現できるものを描けたらいいんだけど…」


彼は彩香としてこのサークルに参加しているが、作品には自分自身を反映させたいという思いがあった。美術の才能があるわけではないが、それでもこのサークルの一員として、自分なりに貢献できる何かを見つけたいと考えていた。


そんな中、スマートフォンが振動し、画面に霞からのメッセージが表示された。


「彩香ちゃん、昨日は来てくれて本当にありがとう。少しずつ体調も良くなってきたから、またサークルに顔を出せるようにするね。」


そのメッセージを見て、智也は胸を撫で下ろした。霞が回復に向かっていることを知り、彼の心も少し軽くなった。


「早く元気になって、また一緒に活動できるといいな…」


そうつぶやきながら、智也は再び筆を手に取り、作品に向き合った。霞とのやりとりが彼に少しの安心感と前向きな気持ちを与えてくれた。彼は次の展示会に向けて、さらに努力を重ねる決意を新たにした。


サークル内では展示会に向けた準備が加速し、メンバーたちの集中力も高まっていた。玲奈は細かなディテールにこだわりながら作品を仕上げており、桜は明るく元気にキャンバスと向き合っていた。


智也もまた、彼らに負けじと自分のペースで作品に取り組んでいた。展示会はサークルの未来を左右する重要なイベントであり、ここで成果を出せれば、サークルのランクが上がるかもしれない。全員がその目標に向かって一丸となって進んでいた。

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