第9話 霞の体調不良とお家訪問
展示会の準備が進む中、サークル活動は活気づいていた。しかし、その中で一人、いつもと様子が違うメンバーがいた。霞だ。彼女は普段から静かで控えめな存在だが、最近は特に体調が優れないようだった。
智也はその変化に気づきつつも、特に深く考えていなかったが、ある日、彼女がサークルを休むことになった。
「霞、今日はお休みらしいんだよね。最近ちょっと具合が悪そうだったし…」
桜が心配そうに話しかけてきた。智也も霞が体調を崩していることは薄々感じていたが、まさか彼女が休むほどとは思っていなかった。霞はいつもサークルの中で静かに、自分のペースで作業を進めていたため、その変化に敏感に気づけなかった自分を少し後悔する。
「霞、大丈夫かな…?」
智也はふと、彼女のことが気になり始めた。普段からサポートしてくれる彼女に対して、自分も何かできることがあるのではないか。そう思い立ち、智也は霞の家を訪ねることを決意した。本来、智也が女性の家を気軽に尋ねるのもおかしいものなのだが、純粋な心配と、小柄な霞を子どものように見ていたこともあって智也は特に気にしていなかった。
放課後、智也は妹・彩香になりきったまま、霞の家を訪ねることにした。彼女の家は、学校から少し離れた静かな住宅街のアパートで、周囲にはあまり人通りがない。
「大丈夫かな…急に訪ねるのも失礼かもしれないけど…」
心配しながらも、智也は霞の家のチャイムを押した。しばらくして、ドアがゆっくりと開き、中から霞の顔がのぞいた。彼女は少し顔色が悪く、体調が良くないことが一目で分かった。
「彩香ちゃん…来てくれたんだね。」
霞の声はかすれていて、いつもより少し弱々しかった。智也は彼女の姿を見て、思わず心配が募った。
「大丈夫?なんか最近調子悪そうだったから…様子見に来たんだけど…」
智也の言葉に、霞は少し微笑んだ。
「ありがとう、彩香ちゃん。ちょっと風邪っぽくて、体がだるいだけなんだけど…」
彼女はそう言いながら、智也を家の中へと招き入れた。智也は部屋の中に足を踏み入れると、霞の家の静かな雰囲気と、少しひんやりとした空気に包まれた。
「せっかく来てくれたんだし…少しだけ休んでいって。」
霞はソファに腰掛け、少し疲れた様子で智也に言った。彼女の体調が悪いことは明らかで、智也は思わず心の中でドキドキしながら、彼女のそばに座った。
「何か手伝えることあるかな? お水とか持ってくるよ。」
智也は霞のために立ち上がり、彼女が少しでも楽になるように気を配った。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り、戻ってきたとき、霞は静かにソファに横たわっていた。その姿を見た智也は、少し胸が高鳴った。
霞はいつも穏やかで静かな女性だが、今は彼女の弱った姿を見ることで、普段とは違う一面を垣間見ることができた。彼女が智也に対して見せる、ほんの少しの無防備さが、彼の心を揺さぶっていた。
霞がベッドに横になり、智也がそっと彼女の額に手を当てると、彼女の肌は少しだけ熱を帯びていることがわかった。額に触れる智也の手は、彼女の体温を通じて、かすかなぬくもりを感じ取っていた。
「ちょっと熱があるかもね…本当に無理しないで。」
智也は優しく声をかけながら、霞に水を渡した。彼女は静かにうなずき、ゆっくりと水を飲んだ。水の冷たさが、霞の体内にじんわりと広がっていく感覚が伝わってくる。
部屋の中には、ほのかに花の香りが漂っていた。それは、霞が普段使っている香水か、それとも自然の花の香りなのか、智也にはわからなかったが、彼女の静かな生活が垣間見えるような、やさしい香りだった。
霞の部屋はシンプルで落ち着いたインテリアが特徴的で、どこか彼女の性格を映し出しているようだった。淡いカーテンから差し込む光が部屋を照らし、彼女の柔らかい顔立ちを優しく包み込んでいる。
霞が少しだけ体を起こし、智也の方に向き直った。その時、彼女の顔が智也のすぐ近くにあった。智也の心臓は、次第に早く鼓動を刻み始めた。霞の細い腕が、ふと彼の腕に軽く触れる。その瞬間、彼は彼女の柔らかい肌の感触を感じ取り、さらにドキドキしてしまった。
「彩香ちゃん、本当にありがとう。なんだか、こんなに優しくしてもらったの、久しぶりだから…」
霞の消極的な性格もあってか、同じ大学の仲間を家に招き入れる機会もなかったらしい。霞の言葉に、智也は思わず胸が熱くなった。彼女の弱った声と、ほんの少し見せた無防備さが、智也にとっては普段とは違う特別な瞬間に感じられた。
「じゃあ、今日はもう帰るね。無理しないで、ちゃんと休んでね。」
智也は霞の家を後にする準備を整えた。霞はベッドの中から静かに見送ってくれたが、その表情は心から感謝しているようだった。
「彩香ちゃん、本当にありがとう。また元気になったら、サークルで会おうね。」
智也は彼女の言葉に頷き、ドアをそっと閉めた。外に出ると、夕方の涼しい風が彼を包んだ。霞の家を訪れたことで、智也は今まで知らなかった彼女の一面を知ることができた。その一日を思い返しながら、智也は少しだけ心が温かくなるのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます