はじめてのサークルプロジェクト

第6話 サークルプロジェクトへの挑戦(1)

翌日、智也は再び「彩香」としてサークルに顔を出した。昨日の初日での緊張感はまだ抜けきれていないが、それでも少しだけ周りに慣れてきた感覚があった。


メンバーたちも彼を「彩香」として扱ってくれており、今のところ疑われる様子はない。だが、今日から本格的にサークルのプロジェクトが始まる。智也は気を引き締めて、その場に向かった。


「今日はさ、本格的に絵を描き始めるから、みんなそれぞれテーマを決めてね!」


桜がみんなに声をかける。サークル全体が取り組むこのプロジェクトは、学内での展示会を目指して進められるものだった。サークルのランク向上にも直接関わるイベントであり、智也にとっては重大な役割を担うことになる。


「展示会か…みんなの前に自分の作品を出すなんて…」


智也は心の中でプレッシャーを感じたが、逃げることはできない。彼はとりあえずスケッチブックを取り出し、何かアイデアを考えることにした。美術の経験があまりない智也にとって、このプロジェクトは大きな試練となるだろう。


「どうしよう…何を描けばいいんだ?」


スケッチブックを前にして、智也はしばらく悩んだ。だが、頭をひねっても絵の構想がすぐに浮かぶわけではない。周りのメンバーたちはすでに自分のテーマを決め、筆を走らせ始めている。


サークル部室には、絵を描くためのさまざまな道具が散らばっていた。キャンバスの上に乗せられた絵の具の匂いが、ほんのりと部屋中に漂っている。ペンや筆がキャンバスに擦れる音が静かに響き、周囲の集中した雰囲気が五感に訴えかけてきた。


智也はその静かな音と、絵具の独特な匂いに囲まれながら、ふと妹・彩香の言葉を思い出した。


「楽しんで描けばいいんだよ。私はいつも気ままにやってたし、そんなに気負わなくても大丈夫!」


彩香の言葉通り、自由に楽しめばいいはずだ。しかし、自分が「彩香」としてこの場にいる以上、何かしらの結果を出さなければならない。そんなプレッシャーが、智也の心を重くしていた。


そんな智也に、明るい声が飛び込んできた。


「彩香、どう?何か決まった?」


桜が近づいてきて、スケッチブックを覗き込んだ。智也が焦って隠そうとすると、桜はにこやかに笑った。


「大丈夫だって!悩むのは当たり前だよ。無理に決めようとしないで、まずは思いつくままに描いてみたら?」


彼女の無邪気な言葉に、智也は少しだけ気が楽になった。そうだ、最初から完璧なものを作ろうとする必要はない。とりあえず、手を動かしてみることにしよう。


智也は桜の言葉に従い、何か自由に描いてみることにした。筆を持ち、キャンバスに一筋の線を引く。最初はただの線だったが、そのうちに形が生まれ、何かの形が見え始めた。


「少しずつでも進めば、何かが見えてくるかも…」


絵の具の感触、筆がキャンバスに触れる感覚、それが少しずつ楽しくなってきた。周りのメンバーが黙々と作業を進める中、智也もまた自分のペースで絵を描き始めた。


少しずつ、何か形が浮かび上がってくる。その瞬間、智也はようやく少しだけ気持ちが落ち着いた。


一日の活動が終わりに近づいた頃、智也のキャンバスには一つの形が出来上がりつつあった。まだまだ未完成ではあったが、自分が描きたいものが少しだけ見えてきた気がした。


「少しずつ進んでいけば、なんとかなるかもな…」


智也はそう自分に言い聞かせ、今日の作業を終えることにした。桜も満足そうに彼の作品を覗き込み、「いい感じじゃない?」と声をかけてくれた。


「ありがとう。頑張って仕上げるよ。」


そう答えながら、智也はこのサークルで自分ができることを少しずつ見つけていこうと決意した。

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