妹の代わりに大学生活を送るのは苦しい
さとこよ
双子と女装と大学サークル
第1話 佐藤智也の葛藤と彩香の提案
佐藤智也は、鏡の前で大きなため息をついた。これからしなければならないことが、あまりにも現実離れしていて、いまだに受け入れられない自分がいた。
部屋の隅に置かれた、妹の彩香が普段着ている女子の服。それを手に取り、鏡に映る自分の姿と重ねてみる。心臓がドキドキし、まるで他人の体を見ているような不思議な感覚に襲われる。
「これ、本当にやらないとダメなのか…?」
智也は何度目か分からないその疑問を呟いたが、返ってくるのは妹・彩香の明るい声だった。
「当たり前じゃん!サークル、私がいなくなったらどうするの?智也ならきっと上手くやれるよ。それに…」
彩香はニヤリと笑って、智也に服を差し出した。その表情には、期待と楽しみが溢れていた。
「少しぐらい女装させてよ、似合うかもしれないし。ほら、楽しいかもよ!」
「楽しくない!ぜんっぜん楽しくない!」
智也は怒ったように言い返す。女子サークルに入るために、妹の代わりに彩香として振る舞うなど、普通ならあり得ない話だ。しかし、数日前に彩香が突然告げた留学の決定が、この状況を生み出した。彼女の夢を叶えるためには、どうしても智也が彩香の役割を果たさなければならないのだ。
「智也、そろそろ覚悟決めてよ。ちゃんと女の子っぽく振る舞わなきゃ、バレるからね。」
彩香はウキウキとした様子で、兄の前に様々な服を広げていく。彼女はこの状況を完全に楽しんでいる。智也がこれほどまでに困惑していることもお構いなしだ。
「なんで俺が…女の子の服を着ないといけないんだよ。」
「だって私がサークルに行けないんだもん。留学が急に決まって、私の代わりを完璧に務められるのは、兄しかいないんだから!」
彩香は淡々とした口調で言うが、その目はキラキラと輝いていた。智也は彼女の期待に応えたい気持ちと、自分のアイデンティティが脅かされている恐怖で、心が揺れ動く。
「でもなぁ…こんな服、無理だろう…」
智也が持ち上げたのは、彩香のピンク色のカーディガンとスカート。触れるだけで恥ずかしさがこみ上げてくる。さらに、彼が持たされたのは、薄いレースのブラとパンティだった。視界に入るだけで、全身が熱くなり、どうして自分がこんなものを手にしているのか理解できなかった。
「智也、大丈夫。何度も言うけど、私がちゃんと教えるから。ほら、まずは下着から!」
彩香はニコニコと笑いながら、その女性ものの下着を差し出した。智也はそれを見た瞬間、心臓が跳ね上がり、顔が真っ赤になる。まるで自分の男らしさが一瞬で消えてしまうような恐怖感に襲われ、手が震えてしまった。
「いや、下着まで…本当にやるのか?」
智也は半ば諦めたようにそれを受け取るが、反抗する余裕も徐々になくなっていく。女性ものの下着を手にしているという現実が、恥ずかしさを一層強調する。心の中では、こんなことをしてはいけないという思いが渦巻いていた。
鏡に映る自分は、もう完全に「佐藤 彩香」だった。智也としての意識と、映る姿のギャップに違和感を覚えていた。智也はもう一度、鏡の前で立ち止まり、深いため息をついた。自分が何をしているのか、理解できないまま、ただ苦悩するばかりだ。
「俺…本当に大丈夫かな…?」
不安が胸を締め付ける。今後、妹の彩香としてサークルに通い、女子たちに囲まれて生活しなければならない。
何か一つでも間違えば、すぐにバレてしまうかもしれない。それに、妹の友人たちと接すること自体が、彼にとって未知の世界だ。
「大丈夫、兄貴ならできるよ。私が全部教えてあげるから、心配しないで!」
彩香は後ろから兄の肩をポンポンと叩き、笑顔を見せた。その笑顔には、彼女なりの優しさがあった。しかし、その優しさが智也にとっては重荷でもあった。
彼は少しだけ、その言葉に救われた気がしたが、それでも心の奥底には不安が残っていた。まるで、暗いトンネルの先に光が見えないように、出口が見えない。
「よし、準備は完璧だね。明日、いよいよサークルデビューだ!」
彩香が満足そうに言うのを聞きながら、智也はついに覚悟を決めるしかなかった。もう後戻りはできない。妹の期待を裏切るわけにもいかないし、家族の事情を考えると、彼が彩香として行動することが最善だった。心の中の葛藤が続く。
「本当に…大丈夫なんだよな…?」
智也は自分に問いかけるが、答えが返ってくることはなかった。ただ、明日の自分がどうなっているのか、想像もつかない。
「きっと…なんとかなるさ。」
そう自分に言い聞かせるしかなかった。彼の心は不安と葛藤でいっぱいだった...
☆☆☆
初投稿です。当面は2日に1話のペースで公開していきます。
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