第2話 猫をNTRた感あり

 ほどほどのイケメン眼鏡猫耳付きだった鈴音の旦那様は、番を発見した。

 家に帰ってきてからの態度ですぐに分かったのは鈴音の過去の経験による。鈴音には前世があり、その前世である獣人の番になったことがある。だからこそ、番を見つけたときの獣人の理性の失いっぷりは理解していた。嫌と言うほど。


 鈴音はさっさと荷物をまとめて、その翌日には別の家へ引っ越ししていた。引っ越し先は、以前から所有していたという高級マンションの一室である。

 住んでいた家はお屋敷というような場所だったのでだいぶ小さくはなった。しかし、快適ではある。本当に個人の家になったのだから。


「はぁ、人が少ないって自由だわ」


 鈴音は呟く。前の家はいわゆるお屋敷だったので、使用人がたくさんいた。いつでも奥様をやっていたので気を抜いてベッドに倒れこんでいることなどできはしない。ぐうたらの極みのようなことは古い伝統ある名家の奥様がしていいことではなかったのだ。

 今は、3LDK+テラスという家であるため、昼は通いの者がいるが夜まで使用人がいることはない。

 もっとも、家の外には監視人がいるのだが。


 表向きは元になる予定の妻が、正気を失い番様を害さないように監禁している、である。実体は、逆に近く、番に近づいたと逆上した獣人がまだ離婚してない妻を殺害しないためである。離婚予定なので犯罪を犯すほどの理由もないことが一つ。もう一つは現在の法ではどう考えても獣人のほうが有罪になるためわりにあわないからだ。

 二百年もたてば、人の法は変わりまともになるのだなと鈴音は思う。


 前世での鈴音は獅子の獣人の番だった。ある日突然さらわれて、そこから20年ほどの監禁生活を送ることになったのだ。友人、知人どころか家族や自らの子とも会わさせぬ生活は糾弾されることもなく当たり前のこととされた。

 それが今では犯罪である。実際誘拐事件として処理された案件をいくつか知っているし、ストーカーとして処理され接触禁止というのもあった。

 まともになったと鈴音は安堵する。それでも今生では番などに選ばれたくもない。


 だから獣人とかかわりたくなかったのに、売り飛ばされた。不本意極まる結婚であったが、相手も同様であったらしい。それでも穏やかな関係はあったはずだ。もっとも鈴音からは普通に、というよ りは、フル獣化したときのネコとして愛でる対象としての認識ではあったが。

 結婚相手というより、うちのでかい猫、である。


 であるから、うちの旦那様が、というより、うちのネコが飼い主見つけてしまったっ! に感覚は近い。なんだかNTRされた気分さえする。しかし、当の旦那さまに言ったところで何一つ改善もしない。それどころか生命の危機に直結する。

 法的に問題があるとは言え、それを覚えている理性がなくなるのが番を見つけた直後の獣人である。

 鈴音としてはお相手はかわいそうになという同情さえ感じる。なにもしないし、できないが、遠くからがんばれーと念を送るくらいだったが。


 鈴音は次の新しい猫を求めて離婚する気である。

 飼うので、軍資金がいる。


 いっぱいいる。


「財産分与と慰謝料と手切れ金をがっぽり手に入れておかなきゃ」


 鈴音は力強く決意した。

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