アンサースキル

あさひ

 答えは己の中に在りて≪live in answer ≫

自分がわからない

何がしたいのかもわからない

だってまだ何が楽しいのかも理解が及ばない

そんなちっぽけな人間だからだ。


 朝日が昇る

日差しによって理解したのは

視線に入った光のせいだろう。

「眩しい……」

 呟きながら少年は

ゆっくりと起き上がった。

「何時?」

 時間は七時を迎えている

もう少しで一階から母の声がする。

「ん?」

 時間になっても声が聞こえない

完璧主義の母にとってありえない失態のはずだ。

 気になった少年は

一階に降りて行く。

「誰?」

 そこには知らない少年が母と談笑していた

こちらに視線を送るとニヤッと笑いながら

コーヒーを啜った。

「お腹空いた」

 端的にそっと言ったが

無反応である。

「無意味だよ」

 吐き捨てるように談笑している少年は

ニタニタと小声を発した。

「どうしたの? りく?」

「虫が蠢いたから……」

「え? 殺虫剤どこかしら?」

 日常会話を目の前で繰り広げる

そこには自分は存在していない。

「まあいっか……」

 冷蔵庫に向かい

日課の牛乳を飲みながら談笑する謎の少年を見ていた。

 しかし母が勝手に開いた冷蔵庫に

気が付く。

「締め忘れ?」

 母が迫ってくるが

奥のプリンに手を伸ばし

遠慮なしに封を切った。

「なっ……」

 怪奇現象を前に固まる母に

少年が焦り始める。

「お前っ! 自分が認識されてないんだぞ!」

「だから?」

「はぁっ?」

 変なことを言ったのかは知らないが

非常識を見る目をしていた。

「常識なんて最初からないよ」

「非常識にもほどがあるだろ!」

 非常識に常識を解かれている

不思議な気分である。

「これは何? 説明を求めます」

「知るかっ!」

 淡々とした少年と激高する少年という構図だが

母にはいきなり感情を爆発する少年しか映らない。

「……」

 母は不意に側にあるフライパンに手をかけて

見えているほうの少年に向かう。

「なっなんだ?」

 ゆらっと紅い目が睨みつける

次の瞬間にはフライパンが頭を打ち抜いた。

「ぐぅ……」

 偽物の少年は倒れた

というか倒されている。

「おおっ! すごい!」

「え?」

 母は振り返る

目の前で打ち倒した少年が後ろで

拍手喝采していた。

「どういうこと?」

「こちらこそだよ」

 話が嚙み合わない

そして倒れた少年へと視線を向けた

しかし認識上のそれは……

【見たことのない獣だった】


 青空は世界を映している

大地は人を生かしている

故に世界は分かたれている。

「腹減ったなぁ……」

 項垂れた少女は

口調こそ悪いがお嬢様学校の制服だ。

「またですか? まったく……」

 先生のような女性が近づく

見たことのない先生である。

「誰だ? 先公風情がよぉ」

 その言葉に憤りを覚えるのが普通だが

ニヤァっと不気味な笑みを湛え

一言だけ放った。

「見えるのか?」

「は?」

 先生の姿をした【なにか】は

笑顔を残しながら体を変化させていく。

「エモノダ」

「篠崎だ!」

 臨戦態勢を取る少女は

拳に力を込めた。

「ニンゲンフゼイガ!」

 しかし人間の拳ではなくなっていく

というか赤い何かが収束していく。

「ナンダ?」

【アンサースキル】

≪レッドブレイカー≫

 アナウンスのような声が響くと

収束された赤い光が剣のような形に変容した。

 刹那に放たれる赤い光剣は

化け物と化した先生を一瞬で穿つ。

「へっ! 大した事ねえな……」

 背中では化け物が溢れ出す光を

内側から剣状に放出していた。

「バカナ……」

 最後の遺言を残した化け物は

塵となっていく。

「腹減ったなぁ」

 その言葉をようやく周りが認識し始めた。

【噓でしょ?】

【篠崎アリシアっ!】

 蜘蛛の子を散らすが如く

散開するお嬢様たちに辟易する。

「またかよ……」

 世界には二種類いるのだ

普通と特殊の二つだ。

 青空は真実 大地は幻想

目覚めることのない大地

真実に出会う青空

簡素にそれは分かたれる。

「くだらなねぇ」

 吐き捨てた少女は

売店のおばちゃんに会いに行った。

 青空は今日もツートンカラー

人はカラフルに存在する。


 学校に通う準備を終えて

通学路を歩く少年

【綱桐陸≪つなぎり りく≫】

 遅刻ではある

しかし行かないのはもっとダメだ。

 ヤンキーお嬢様が目の前から

焼きそばパンを頬張りながら歩いている。

 不意にお腹が鳴り響く

ヤンキーお嬢様は笑いながら

少年にラップされたメンチカツサンドを渡してきた。

「腹減ってんだろ?」

「そうだね」

「ちょっと面貸せや」

 言われるままに引きずり込まれる。

「お前ってあれについてなんか知ってるな?」

「あれ?」

 何を言ってるか理解できない

ヤンキー特有の表現だと思った。

「化け物だよ」

「ん? 変な獣のこと?」

「最初から言ってんだろ」

 話を聞き始めると

どうやら特殊異能のようなものが見えるらしい。

「アンサースキルってんだけどな?」

「あんさーすきる?」

 首を傾げながら話を聞いていると

顔が少しずつ赤くなっていく。

「どうしました?」

「そんなに面白いか?」

「ん?」

「私の話だよ」

 面白いというより

聞かないとマズイ気がするだけだが

確かに興味深い。

「そうですね」

「なっ……」

 涙が滲みながら

歓喜しているヤンキーお嬢様は

次の瞬間にはギュッと圧迫されていた。

「案外あるんですね」

「なにがぁ?」

 髪を丸めたような顔で

聞いてきたのでしっかり答える。

「胸ですね」

「おうおう…… ん?」

 さすがに気が付いたのか

さらに紅潮した後に

ゆっくり引きはがしてきた。

「すっすけべぇ……」

 上目使いで

恥ずかしがりながら胸を抑えている。

「可愛いですね」

「なっ! おまっ! んんんっ!」

 初めてだったのだろうか

そういう目で見られたことがないらしい。

「お前! 好きなんだろ!」

「いいえ」

「はぁっ?」

 ふざけんなと罵るのかと思ったが

ズイズイと迫ってくる。

「なっなんですか?」

 顔が真ん前に来る頃には

目を閉じながらキスをしようとしていた。

「恋愛観が死んでますね」

 目を閉じたままで

しかめっ面だとわかるほど歪む。

「それはそうと……」

「何かようですか?」

 今更だなと顔に出した後に

一言だけ言われた。

「お前もアンサースキルが使えたらどうする?」

 逡巡が走る

答えは出ている。

「面白そうですね」

「よしっ! 決まりだ」


 これは始まりの序章だ

物語は一度だけ終幕をしよう

しかし

この逸話が

世界を占めるかもしれない

では 

またその時に


 破片

【これが真実の世界?】

【逃れし者たちの住処≪マグノリア≫】

【てめえっ! 嫌じゃねえのかよ! 母ちゃんなんだろ!】

【なんで? アリシアには関係ないでしょ?】

【いなくなるなよ…… アリシア……】

【待ったか? バカオタク君?】

【これで最後の獣だな……】

【さよならだね】


 一時 おわり



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アンサースキル あさひ @osakabehime

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