第90話

「…っ!翡翠様は狡いです!!私の気持ちには応えられないって言うくせに、こうやって何かあると構ってくれる。好きじゃないなら、放って置くんですよ、普通は!じゃなきゃ、いつまでも勘違いして期待してしまうんです!諦められなくなるんです!」




つい勢い余って翡翠様に向かって、心の声を叫んでしまった。



「……」



案の定、翡翠様は黙ったまま、少しだけ驚いたように目を見開いている。



ああ、……もう最悪だ。


明日から企画の始動でしばらくお寺に来られなくなるから、今日だけは心穏やかに帰りたかったのに。



これじゃ別の意味で、もうお寺に来られなくなりそうだ。


…でも、もしかしたら丁度良かったのかもしれない。






「……すみません。」






そう、翡翠様に呟かれたのを合図かのように、黙って私は勢いよく石段を駆け下りた。


私が言った事の意味を理解した翡翠様は、もう追っては来てくれない。


これが答えなのだ。



これでしばらくは、翡翠様に会えなくなる。

でも、これでいい。



そうすれば、二人が一緒にいるところを見なくて済む。


少しずつでも、諦める事が出来るかもしれないから。

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