1.お坊様は毒舌。

第1話

「翡翠(ヒスイ)様!翡翠様!翡翠様ーー!!」



バタバタと少し足音を立てながら、目的の部屋へと一直線に向かう。



「…境内では、お静かに願います。」



書物に静かに目を通していた翡翠様が、チラリと視線を少し上げてこちらを見る。


それだけで、ドキッと大きく心臓が飛び跳ねてしまう。



ーーあぁっ!!

やっぱり翡翠様はいつ見ても、本っ当綺麗!!



「翡翠様、ご相談があるんです!」


「…なんでしょう?」


「好きで好きで好きで堪らない人がいるのですが、振り向いてもらえない時は、どうしたらいいですか!?」



翡翠様の真正面に正座して、ドキドキと綺麗な顔を見つめ返事を待つ。



ーーーも、



「縁がない方だったのでしょう。縁ある方は必ずいるのです。きっと他に目を向けなさい、と仏様は仰っているのですよ。」



パタリと書物を畳んで、翡翠様が立ち上がった。



「えーーー!!それは絶対無いんです!!その人が私の運命の人なんですーー!!そういう場合はどうしたらいいですかーー!!」



スタスタと部屋を出て行こうとする翡翠様の法衣の裾を引っ張って、引きずられるようにして後を追う私は、



ーー26にもなって、正に金魚の糞だ。

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