第43話 陸海軍対策

陸海軍の装備については着々と準備が整いつつあるが、戦争準備全体については最も厄介な問題が手つかずで残っている。

これから記すことなのだが、これは一筋縄ではいかないし、父でも解決は難しいだろうから理想論だけ記そう。

こうなればいいなという話なので少々情けないが。。。


■陸海軍を統括する部門を作りたい

以前に帝国陸海軍の仲が悪かった話には触れたが、この世界ではそういったことが発生しないようにしたい。

史実としては軍服のデザインが違うのはまあいいとして、お互いの軍内での呼称の仕方まで違っていた。

対空砲の事を海軍では高角砲、陸軍では高射砲と言っていたし、航空部門では機銃と機関砲、搭乗員と空中勤務者、航空隊と飛行隊、中隊と分隊、航空戦隊と飛行団などいちいち違う。

果ては敬礼の仕方まで違っていた。

だからたとえ私服を着ていようが、少し会話をするだけで所属がどちらなのかすぐ判明したはずだ。


航空機も陸軍用と海軍用が違うのはまだ理解できるが、陸軍が「潜水艦」やら事実上の「空母」まで建造するのはやりすぎだろう。

これも陸海軍の協力体制が無いという影響を無視できない。

"あいつらの世話にはなりたくない”という意識は確実にあっただろう

日露戦争においても陸海軍の反目は表面化していたが、このまま何もせずに昭和まで待っていたら修正不能になってしまう。


アメリカも1940年代後半に空軍の戦略爆撃機万能論に押された事によって、空母不要論が取り沙汰された時期もあったが、日本の場合は内部対立がひどすぎる。

予算の奪い合いを端緒とする陸海軍の不仲は今後ますます酷くなりそうだし、最悪は統帥不能な状況になるかもしれない。

これを読んだ方も「まるでウチの会社の派閥争いみたいだな」と感じたかもしれない。

そう。まさに派閥争いだ。

というのも以前にチラリと「藩閥政治が行われている」と記したが、明治維新を起点とするこの国の成り立ちからの影響が大きく関連する。

分かりやすく単純化して言えば長州を親分とする陸軍閥と、薩摩を首魁とする海軍閥。

属している人間でいえば長州閥は山縣有朋、伊藤博文、乃木希典、児玉源太郎、桂太郎など。

薩摩閥は山本権兵衛、東郷平八郎、西郷従道、大山巌などだ。

特に山縣有朋は陸軍の創設に深くかかわり、日本陸軍の父と称されるし、軍人勅諭の作成にもかかわった。

山縣は陸軍における巨頭であったし、その存在感は圧倒的だ。

その山縣の死後「重し」が外れた陸軍は皇道派と統制派に分裂していがみ合う事となる。

ホント心が洗われるような関係だな。もちろん嫌味だが。

薩摩出身ではあるが陸軍軍人の大山巌が、結局最後まで何度依頼されても内閣総理大臣就任を受けなかったのは、こうしたドロドロに嫌忌していたからかも知れない。直接本人に確認はしていないが、可能性はあるだろう。


では一方の海軍はマトモかと言えば、陸軍よりは少しだけましかも知れないが、大同小異だろう。

何故かと言えば太平洋戦争中の事だが、連合艦隊司令部は短期決戦を狙ってミッドウェー方面攻略を重視するが、海軍軍令部は南方資源を確保する案にこだわった。

南方の石油を確保して長期戦に備えるためであり、連合艦隊の短期決戦方針とは逆だ。

このように海軍内部でも意見の隔たりがあり、それぞれの立場の人間がそれぞれのポジションの事しか考えないから方針も戦略も統一できなかった。

また、こちらは艦隊派と条約派のいがみ合いもあったし、五・一五事件を起こしたのは海軍だ。


以前も言ったし、しつこいかも知れないがこれでは戦争に勝てない。


日本の大企業でもこういった事例はよくあるだろう。

そして本来、敵は「外」にいるはずが「内」ばかり気にするようになる。

そんな企業に明るい将来は無いだろうし、新たな戦略もアイデアも生まれにくいだろう。


この原因は複数あるだろうが、その大きな原因の一つとして元老"制”にあると俺は見ている。

長州閥の山縣有朋、伊藤博文、桂太郎、井上馨かおる

薩摩閥は松方正義、大山巌

現在存命な以上6名に加え、本来ならこの後に西園寺公望が列せられるはずなのだが、この世界では父にその話が来ている。


この元老"制”が問題なのは帝国憲法に記載のない存在だという事だ。

だから元老"制”などという正式な制度は無いし、言葉も権限も定義があいまいだ。

元老になるには陛下が詔勅を発して就任する流れとなっている。

このシステムの良い点としては、とにかく少数で物事を決定できるから、スピード感のある国家運営ができる点だろう。

悪い点は、密室政治になりがちで、決定の経緯も不透明なことが多いから、国民から見て不信感を抱きやすい事だ。

内閣総理大臣を推薦するというキングメーカー機能も問題だ。

これでは推薦された人間は元老に頭が上がらなくなってしまう。

また憲法に明記されていない存在というのも大問題だろう。

昭和後期の「闇将軍」を連想させてしまう。

仮に令和の時代にこんなものが存在していたら一発アウトだろう。。。実態は知らないが…


申し訳ないが、陛下の決定でこれだけは賛同しかねる。様々なしがらみの結果だということは理解しているのだが…

政党政治が軌道に乗ったら将来は解散してもらおう。

そして内閣総理大臣を頂点とする文民シビリアン統制コントロールを更に明確に、明文化すべきだ。

その上で、陸海軍を統合する部門を設置できれば21世紀の軍隊並みのコントロールは可能かもしれない。


これから起きるかも知れない大正政変と、それに続くシーメンス事件を利用して何とかならないものか。

ちょっと状況を見ながら対策を練ろう。


史実の大正政変とシーメンス事件は一見関係が無いように見えるが、実は繫がりがあると俺は感じているからだ。

大正政変とは陸軍からの2個師団増設要請を拒否した西園寺内閣に対して、これを不服とした陸軍大臣の辞職に発展し、後任人事選出を陸軍が拒否した政変だ。

これが原因で西園寺内閣は倒れた。

シーメンス事件はドイツ企業のシーメンス社が日本側に賄賂を渡していたことが発覚し、時の山本権兵衛内閣が倒れるに至った。

これは大正政変での意趣返しを海軍に対して行うために陸軍が、というより山縣有朋が大問題になるよう混ぜ返した事件だろうと考える。

先ほど触れたように山本権兵衛は海軍出身の薩摩閥だからだ。


この世界では憲法第55条の欠点が穴埋めされて、陸軍大臣が西園寺内閣に正面切って反抗することは考えにくいし、そもそも大陸防衛を目的とした2個師団増強要請だったから、大陸に軍を展開していない現状では大正政変は起きない確率が高い。

また軍部大臣現役武官制も憲法第55条修正の段階で中止されているから、現役の将官が陸海軍の大臣を務めている現状にはなっておらず、軍部の意向は反映しづらい状況なのも安心材料だ。


しかし、シーメンス事件は避けられないだろう。

あれにはドイツの皇帝も絡んでいると俺は見ているからだ。

どういうことかと言えば、日露戦争における日本海軍の強さを認めたウィルヘルム2世は、アジア方面におけるドイツ海軍の劣勢に対して危機感を持ち、日本内部の混乱を狙ったという説がまことしやかに流布されているからだ。

シーメンスはドイツ企業であることは見逃せない。

国民もシーメンス事件が表沙汰になると、重税に苦しんでいたという背景もあって激昂し、山本内閣は倒れるに至る。


この世界では大陸進出を諦めさせられ、恨みが溜まっているであろう陸軍はこの機に乗じて、史実より強烈な反応を示す恐れがある。

さて、どうするか。

やっぱり利権が足らないという事かな。


■精神論偏重について

それと次に重要なことは「精神論」偏重を何とか修正することだ。

この時代でも史実よりは少ないとはいえ、陸軍の戦闘において、いわゆる肉薄突撃、白兵戦は有った。

これがあったから日本軍の強さは際立ったという側面はあったかもしれない。

精神力はすべてに優先するという思考だ。

まともな武器が用意できないから精神力で補おうとする。

昭和の陸軍においては、どう考えても武器より人間の方が高くつくのに誰もわかっていなかった。

一人の人間を教育して兵士にまで育てるのに必要な時間と費用を考えれば答えは一つだろう。


軍人勅諭も同様だ。

日清・日露では役に立ったのかもしれないが、これからは大量破壊兵器が発達する時代だから、とてもじゃないが精神論で太刀打ちできない。

これは著しくバランスを欠くものであると断言していいだろう。


ただし、あくまでもバランスだ。精神論なんていらないとは言わない。

というのも人間の能力が一定であると仮定して、精神力モチベーションが有ると無いとでは答えに大きな差が生じるだろうことは疑いが無いからだ。

これはなにも戦争だけに留まらない。ビジネスの世界でも同様だろう。


①実績=②能力×③モチベーションだろう。


つまり②が仮に100でも③が0なら答えも0だ。そして②は能力0の人間はいないが③が0の人間は存在するだろう。

だから精神力も重要なのだが、その為には十分な武器が無いと話にならない。

精神論が幅を利かす前に新兵器開発は必須だな。


これも取引材料に使おうか。

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