48 本当の私(レキ視点)


 SIDE レキ



「ふうっ……」


 マリエルの錫杖から青い光が消えた。


 さすがに【浄化】をずっと放ち続けることはできないらしい。


 一方のレキもいったん魔力の盾を消した。


 シンと場が静まり返った。


 お互いに次の攻防を仕掛ける隙を伺っている――。

 と、


 ゆっくりと。


 レキの額にある第三の瞳が開いていく。


 その瞳が黄金の光を放った。


 高位魔族【カオスメイジ】の膨大な魔力を、今こそ全開にする――その予備動作。


「【ファイアアロー】」


 ボッと音を立てて、レキの側に炎の矢が出現した。


「【アクアアロー】」


 さらに水の矢が。


「【ウィンドアロー】」


 さらに風の矢が。


「【アースアロー】」


 最後に土の矢が。


 地水火風、四元素の魔力矢がレキの周囲に浮かび上がる。


「四元素融合――【カオスアロー】!」


 四つの矢は一つになり、混沌の力を秘めた魔力矢となって放たれた。


 これが彼女の切り札だ。


 理論上は可能だ、と前から思っていた。


 だが、実戦で実力を十分に発揮できないレキは、ずっとこの術式を試す機会を逃していた。


 けれど今、レキは実力の全てを出し切って戦う自信があった。


 ゼルが側にいてくれるから、自信をもって戦える。


 勇気をもって戦える。


「だから、この術を使える――これが私の力です!」

「ちいっ……」


 マリエルが魔力の盾を生み出す。


「まさか、四元素魔法を同時に扱うなんて――さすがは魔族の魔力量といったところですか……」


 ぐぐぐぐっ……。


 混沌の矢が、魔力の盾を押し込む。


 盾の表面に無数の亀裂が走っていく。


 相手が【聖女】であろうと自分は負けていない。


 むしろ、押している。


「いける――!」


 レキはさらに魔力を込めた。


 ばきばきばき……っ!


 魔力の盾の亀裂が大きくなる。


「くっ……強い……!」


 マリエルの表情が歪むのが見えた。


 その顔を見ていると、かつて覇王戦役で味わった挫折と惨めな敗北感が薄れていくのを感じた。


 私は、間違いなく強い。


 私はやっと――『本当の私』になれた。


 嬉しかった。


 誇らしかった。


「これがレキ・レヴリットの真の力……! もう誰にも負けません!」


 そう、この力があれば己の誇りを守ることができる。


 そして仲間を守ることができる。


「ゼルさんも、私が守ります」


 彼女が立ち直るきっかけをくれた少年。


 彼女の心を支え、励ましてくれた大切な仲間。


「私が得た力は――そのために使いたい!」


 ばきんっ!


 そして、ついに魔力の盾が砕け散った。


 同時に混沌の矢も消滅する。


「はあ、はあ、はあ……」


 マリエルは大漁の魔力を使った疲労からか、肩で息をしていた。


 一方のレキは間髪入れずに、次の呪文詠唱に入る。


 これが魔族の優位性だった。


 人間に比べて圧倒的に大きな魔力は、連続した魔法攻撃を可能にする――。


「終わりです! はあああああああああああっ!}


 レキは全魔力を込め、追撃の、渾身の魔法弾を放った。


「きゃぁぁぁっ……」


 吹き飛ばされるマリエル。


 人間界で聖女と呼ばれているらしい彼女を、レキは魔法戦闘で圧倒していた。


「これが私の力です……はあ、はあ……」


 が、さすがに全力を振り絞ったため、息も絶え絶えだった。


 マリエルに追撃できない。


「隙あり!」


 と、そこへアッシュが襲い掛かる。


「し、しまっ――」


 凶刃が、レキへと迫る――。






****

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