33 以前苦労した敵を相手に、今の実力を確かめる


 ダンジョンをさらに進むと、前方に三つの人影が見えた。


 いや、人に似てるけど人じゃない。


 黒いローブを着た魔術師型のモンスター。


「【ダークメイジ】か……そういえば、このダンジョンに出てくるんだったな」


 以前、『異空間闘技場』で俺を苦しめたモンスターだ。


 剣士である俺に対し、こいつは遠距離からの魔法攻撃オンリー。


 しかも三体が次々に撃ってくるから、近づくのも容易じゃない。


「あのときは苦労したっけ……」


 だけど、俺も当時よりずっと強くなっている。


 奇しくも、あのときと同じ三対一というシチュエーションだ。


「俺の成長を確かめるにはもってこいだな」


 不敵に笑い、俺は剣を構えた。


 ごうっ!

 ごうっ!

 ごうっ!


 あのときと同じく【ダークメイジ】たちは火球を放ってきた。


 それぞれが微妙にタイミングをズラしていて、避けるのが難しい。


 まして、これらをかいくぐって接近するのは至難の業――。


「……なんてな。今の俺には遠距離攻撃手段があるんだ」


【バーストアロー】を発動。


 まずダークメイジ一体を撃破する。


 投げた剣は撃破したダークメイジに突き刺さったままなので、予備の剣を抜いて距離を詰める。


 迫りくる火球は【集中】から【見切り】を発動し、すべて避けることができた。

 そして、


「【高速斬撃・六連】!」


 六連撃で残る二体をあっさりと撃破する。


 ほぼ瞬殺だった。


「前はあんなに苦労したのに……まったく苦戦なしで倒せるようになってるな」


 感慨深い。


 今までの戦いの日々が、強敵との戦いの経験が、俺を確実に強くしている――。




 その後、現れたモンスターはことごとく瞬殺し、俺は次々に成長カプセルを手に入れた。


 道のりは順調そのものだった。


 カプセルを全部入手したところで探索終了。


 俺はダンジョンを出て、宿に戻ってきた。




 戻ると、夜もだいぶ遅い時間帯だった。


 だいたい午後十時くらいだろうか。

 と、


「随分遅かったですね」


 ロビーに入ったところで、ミラとレキに声をかけられた。


「あ……こんばんは」

「何がこんばんはだよ。今までどこ行ってたんだ?」


 ミラが俺をにらんだ。


「えっ? その――」


 ダンジョンに行っていたことを素直に明かすべきかどうか――。


「その態度……さてはいかがわしいお店ですね」


 レキがジト目になった。


「ゼルさんも夜遊びを覚える年ごろになりましたか」

「年頃って……そういうツッコミするタイプなんだ、レキ」

「えちえちなネタは苦手でしたか」

「いや、苦手っていうか、レキのキャラ付けに戸惑っただけ」

「で、何やってたんだよ? ん?」


 ミラがたずねた。


「顔赤くない?」

「え、えちえちなネタとか、レキが変なこと言いだしたからだ!」


 あ、動揺してる。


 ミラは下ネタが苦手系のキャラか。


 まあ、俺もそんなに得意じゃないけど――。


「その……ちょっと個人的な修行をしてて……」


 結局、俺は多少誤魔化して説明することにした。


『成長アイテム』の存在を知っていることを話すと、『どうしてそんなことを知っているんだ?』という疑問を返されるだろう。


 俺の前世のことを話しても信じてもらえるかも分からないし、話していいのかどうかも分からない。


 下手をすると『人間界のことに詳しいということは、実は人間側の内通者では?』なんてあらぬ疑いをかけられる可能性だってないわけじゃない。


 なんにせよ、色々とややこしいことになりそうだ。


 だから、二人には悪いけど、ここは誤魔化すことにする。


「個人的な修行? こんな時間まで?」


 ミラが俺をにらんだ。


「むむ……」


 めちゃくちゃ怪しんでる!


 その隣のレキもなんだか冷たい目で俺を見ている気がするし――。


「やるじゃねーか、お前! やっぱ急に強くなったのは、それだけ努力してたからなんだな!」


 ミラが満面の笑顔になった。


「日頃のトレーニングの積み重ね……素晴らしいです」


 淡々と語るレキ。


「夜遊びして、えっちなお話を聞けると思ったので、そこは残念ですが」

「やけに引っ張るな、そのネタ」


 俺は思わずツッコんでしまった。

 と、


「なあ、いっちょ俺とやってみねーか? ちょっとだけ、さ」

「えっ」

「確かにお前は強い。この間の戦いでも世話になった。けど……いや、だからこそお前と戦いたい」





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