16 新スキル、開眼!


「なら、この戦いで俺は【弾く】をモノにしてやる……!」


 俄然、闘志が湧いてきた。


 相手が強敵であることに変わりはない。


 それでも攻略の糸口が見えれば――戦える。


「もういっちょ――【弾く】!」


 俺は黄色い二重丸に向かって折れた剣を突き出す。


 と、その瞬間に黄色い二重丸が消え失せた。


「えっ……!?」


 ルインの拳が迫る――。


 俺はとっさに体を無理やりひねり、横に跳んだ。


「がはっ……」


 拳をギリギリ避けたものの、衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされる。


 強烈な勢いで地面にたたきつけられた。


 体がバラバラになりそうな衝撃だ。


「はあ、はあ、はあ……」


 たった一発、それもかすっただけでこのザマとは――。


 やっぱり、素の攻撃力に差があり過ぎる。


 向こうは俺の攻撃を食らっても、ほぼノーダメージ。


 対する俺は、かすっただけで大ダメージ。


「強い――」


 やっぱり、強い。


 これが騎士団長クラスの高位魔族の実力か――!


「その妙な技は未完成のようだな。あるいは単なる偶然で俺の攻撃を弾いただけか……どのみち、もう終わりだ」


 ばぐんっ!


 ルインの全身の装甲が内側から開いた。


 しゅうう……。


 と蒸気が噴き出す。


「次はさっきの五倍の力で食らわせる。降参するなら今のうちだ」


 ルインが告げた。


「俺の騎士団に移籍すると約束しろ。そうすれば、終わりにしてやる」

「っ……!」

「お前は確かに強い。下級魔族とは思えんほどの強さだ。それでも高位魔族には届かん――」


 ルインが傲然と告げた。


「だが、俺の元で力を磨けば、お前はもっと強くなる。ラヴィニアの元にいても、素晴らしい素質を腐らせるだけだぞ」

「なんだと……!」

「腰抜けの元では、お前の素質は開花しねーよ」

「ラヴィニア隊長を侮辱するな、と言ったはずだ……!」


 こみ上げる怒りが、萎えかけた闘志にふたたび火をつけてくれた。


 そうだ、俺はこいつに負けられない。


 折れた剣を構えなおした。




「ゼルくん――」




 ラヴィニア隊長が俺を見つめていた。


「ごめんね、私のために……」

「隊長、俺は」

「でも、君が退かないのは分かってる。だから私はここで見守る。隊長として。だから――」


 ラヴィニア隊長の言葉が、俺に勇気を与えてくれる。


 この大ピンチの状況でも――不思議なほど自信が湧いてくる。


「勝ってきなさい、ゼルくん」

「はい!」


 ラヴィニア隊長に見てもらえるだけで、俺にとっては百人力だ。


 だから、あとは隊長の言葉通りに勝つ。


 勝ってラヴィニア隊長の元に戻る。


「さあ、最後の攻防だ」


 俺は地面を蹴って駆けだした。


【突進】を発動し、一気に加速する。


「食らわせてやる――【衝撃拳】!」


 ルインが右腕を振りかぶり、渾身のパンチを繰り出した。


 単なるパンチが衝撃波を伴い、圧倒的な攻撃力となって俺を襲う――。


「【集中】」


 俺はあらためて集中力を高めた。


 相手の動きがだんだんとスローモーションに見えてくる。


 完全集中状態による、いわば【無我の境地】だ。


 そして――、


「見えた、そこが【弾く】ポイントだ!」


 俺は黄色の二重丸に向かって、折れた剣を突き出す。


「無駄だ」


 その瞬間、黄色の二重丸が消え失せた。


 おそらく、奴は拳撃の軌道を自在に変えられるんだろう。


 軌道が変われば、【弾く】ためのポイントもズレてしまう。


 だから、最初に俺が見切ったポイントを示す黄色の二重丸も消えてしまったんだ。


「けれど――軌道がズレれば、新しいポイントが現れるはず。そいつを見切るんだ――」


 俺はなおも【集中】し、奴の拳の軌道を見切る。


 見る。


 見る


 見る見る見る見る……。


 さらに見る――。


「見えた……っ!」


 現れた。


 新たな黄色い二重丸が。


「また俺の攻撃を弾くつもりか! だが、それだけでは勝てんぞ!」


 分かってるさ。


 しょせん、俺の攻撃力じゃこいつの耐久力には届かない。


 だから、もう一手必要なんだ。


【弾く】が防御用の見切りなら、もう一手――攻撃用の【見切り】が。


 ごおおおおおおぅぅっ!


 衝撃波を伴い、ルインの拳が迫る。


 それを【弾く】ことで攻撃の軌道を逸らせることは可能だ。


 けれど、それだけじゃ足りない。


「見切るんだ」


 俺はさらに集中した。


 深く、深く――今まで以上の【集中】を。


 今までよりもはるかに深い【集中・深化】を。


 そして――見えた。


「あれは!」


 ルインの胸元に赤い二重丸が見える。


【弾く】とは色が違う。


 そうだ、これは――。


「おおおおっ!」


 俺はまずルインの拳を弾き、いなした。


 同時に衝撃波も軌道をずらしておく。


「くっ……」


 バランスを崩したルインの胸元ががら空きになる。


 そこには赤い二重丸が浮かび上がっている。


 あれは――攻撃のダメージをもっとも効果的に与えられるポイントだ。


 いわば【急所の見切り】。


「そこだーっ!」


 俺は折れた剣を振りかぶり、赤い二重丸に向かって渾身の【高速斬撃・六連】を叩きつけた。


 俺が今まで培ってきたスキルと新たに身に付けたスキル……【突進】【集中】【弾く】【急所の見切り】、そして【高速斬撃・六連】。


 五つのスキルを連動して放つ、これが俺の最新最強のコンボ技――。


「【スカーレットブレイク】!」

「うおおおおっ……!?」


 さすがのルインも押され、後ずさる。


「デモンブレイダーの一撃……いや、六撃が俺を下がらせるとは――むっ!?」


 ぱき……ぱき……ぱきんっ。


 ルインの胸部に大きな亀裂が走り、オリハルコンの破片が地面に落ちた。


「俺の体の一部を砕くか……その鉄の剣で」


 ばきんっ……!


 一方、俺の剣もさっきのコンボ攻撃で限界を迎えたのか、粉々に砕け散った。


 これで素手になってしまった――。


「けど、まだ戦える」


 俺には【弾く】と【急所の見切り】があるんだ。


 この二つを組み合わせれば、素手でも。


「――参った」


 ルインが片手を上げた。


「えっ?」

「俺の負けだ。降参する」





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