7 さらに一気にパワーアップ

「さあ、来い」


 俺はさっきと同じ試練に挑んだ。


 相手はダークメイジ3体。


 前方10メートルくらいの場所で杖を構え、いっせいに火炎弾を撃つ構えに入る。


 俺の斬撃の間合いには程遠い。


 このまま火炎弾の連発が始まれば、またさっきと同じ結果になるだろう。


 やはり遠距離攻撃というのは、絶対的なアドバンテージがある。


「――だけど!」


 そのアドバンテージは今、消滅する!


 俺からダークメイジまでの距離は、『斬撃』の間合いには遠い。


 けれど剣士の攻撃は『斬撃』だけじゃない。


「これなら――っ!」


 俺は剣を振りかぶり、


 ぶおんっ!


 槍投げの要領で思いっきり投げた。


『斬撃』じゃなく『投擲』による攻撃――!




 ざしゅぅっ!




 俺が投げつけた剣は狙い過たず、ダークメイジ一体を貫いた。


 そいつはそのまま倒れ、残る二体も動揺したのか、一瞬動きが止まる。


「今だ!」


 俺は全力でダッシュして間合いを詰めた。


 ダークメイジ残る2体はすぐに気を取り直し、火炎を放ってくる。


 けど、3体のときよりも弾幕が薄い。


「いける――!」


 俺はさらに加速した。


 多少被弾しても気にせず、痛みを無視して、どんどん間合いを詰めていく。


「おおおおおおおっ!」


 今の俺には剣がない。


 けれど、仮にパンチやキックだけでも相手がダークメイジなら接近戦で勝てる。


 そして俺は、二体の火炎魔法をかいくぐり続け、ついに接近戦の間合いに到達した。


 手近の一体に拳を繰り出し、思いっきり殴り飛ばす。


 どさり。


 数発食らわせると、そいつは倒れて動かなくなった。


 あと一体――。


 どんっ!


 しかし、そいつは俺が二体目を戦っている間に距離を取っていた。


 ここぞとばかりに大量の火炎弾を放ってくる。


「くっ……ううう……」


 すでに俺の体には魔法攻撃のダメージが蓄積している。


 一体目を倒した投擲攻撃も通用するかどうかは分からない。


 最初に決まったのは、あくまでも奴らの想定外の攻撃だったからだ。


 奴はすでに俺が投擲攻撃を使うことを知っている。


 意表を突くのは無理だ。


 なら、やはり正攻法で行くしかない。


 俺は一体目の側まで行き、剣を拾った。


「さあ、最後の攻防だ」


 どんっ、どんっ!


 ダークメイジが火炎弾を撃つ。


 俺はまっすぐ突っこんだ。


 一発や二発食らうのは覚悟の上。


 ここまで来たら根性比べだ。


「おおおおおおっ……!」


 俺は最高速にまで加速し、ついに奴に肉薄した。


 ざんっ!


 繰り出した一撃が奴を両断した。


「あー……きつかった」


 俺はその場にへたりこむ。


 やはり魔法を使えない俺が、魔術師と遠距離でやり合うのは相当にきつい。


 正直、二度目のチャレンジでも死ぬかもしれないと思ったくらいだ。

 と、




『ダークメイジ撃破により、新たなスキルを獲得しました』




「えっ……!?」


 俺は驚いて顔を上げる。


 そうだ、ゲームの『闘技場』でも戦いを終えた後、スキルを新たに習得することがあったっけ。


――――――

名前:ゼル・スターク

種族:デモンブレイダー

ちから:33→58

はやさ:41→77

HP:109→153

MP:0

スキル:【上段斬り】【中段突き】【下段払い】

    【投擲】←new!

――――――


「【投擲】……か」


 さっき俺が一体目のダークメイジを倒すときに使ったのは、一か八かの投擲だったけど、それをスキルとして習得できたわけか。


 ちなみにこの世界におけるスキルというのは、『特殊能力』に近いものだ。


 前世の現代日本には存在しない能力なので、説明しづらいんだけど――。


 例えば、俺が得意としている【上段斬り】というスキルがある。


 名前の通り、剣を上段に構えて敵に斬りつけるという単純な技だ。


 単なる上段斬りなら、別にスキルを身に着けていなくても実行できる。


 剣を上段に振りかぶって、振り下ろすという動作をするだけだからな。


 ただし【上段斬り】のスキルを発動した場合、前述の動作とは多少異なってくる。


 スキルを発動することで、感覚が鋭くなり、そのスキルに必要な能力――腕力などが一時的に上昇する。


 振り下ろす剣の軌道も無形の力によってある程度の『誘導』を受け、正確に敵に当てやすくなる。


 要は単なる『上段斬り』の動作に、スキルによる『補正』がかかり、より強力に、より精度が高くなる――という感じだ。


 たぶん【投擲】のスキルを使うときも同じようなことが起きるはずだ。


 腕力が強くなったり、コントロールがよくなったり、あるいは飛距離も伸びるかもしれない。


 どちらにせよ、斬撃に比べて遠距離の敵を攻撃できる【投擲】は貴重なスキルだ。


 これで以前よりも格段に戦いやすくなるだろう。


「よし、次の試練をやるか」


 俺は楽しくなってきた。


 やっぱり努力して、目に見えて成果が出ると楽しい。


 自分の成長を実感できるというのは嬉しいものだ。




 次の試練は『ストーンゴーレム3体を倒すこと』だった。


 名前の通り全身が岩石で作られた自動人形だ。


 当然、防御力は高い。


 単純に斬りつけてもダメージをほとんど与えられないし、下手をすれば剣の方が刃こぼれしてダメージを負う。


 魔法を使う敵の次は、防御力の高い敵ということか。


 さて、どう攻略するか――。


 まっ。


 軋むような音を立てて、ストーンゴーレムたちが襲い掛かる。


 幸い、こいつらの動きは鈍いので、気を付けていれば攻撃を食らうことはまずない。


 ただ、こっちの攻撃も奴らに通らないため、完全に膠着状態だった。


 せっかく身に着けた【投擲】スキルも、こいつらには通じないだろう。


 剣を投げたところで、ダメージなんて与えられないだろうし――。


 と、そこまで考えたところで、ハッと俺は気づいた。


「……別に剣を投げる必要はないんだよな」


 考えてみれば当たり前なんだけど、俺はこのスキルを『剣を投げるスキル』だと思い込んでしまっていた。


「まずは――石を投げてみよう」


 俺自身が投石器になるわけだ。


 どごおぉっ!


 意外な威力が出て、ストーンゴーレムがのけぞる。


 そこらの石を投げつけただけで、この威力――。


 まるで銃弾である。


「こいつは思った以上に使えるぞ……!」


 俺はさらに石を投げまくった。


 まず一体を集中攻撃して倒す。


 そして、そいつの残骸を投げつけて、さらにもう二体を倒した。


 あっという間にストーンゴーレム撃破完了だ。


――――――

名前:ゼル・スターク

種族:デモンブレイダー

ちから:58→89

はやさ:77→104

HP:153→199

MP:0

スキル:【上段斬り】【中段突き】【下段払い】

    【投擲】

――――――


「よし、また強くなったぞ……!」


 この調子でいけるところまで行ってみよう。





****

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