5 異空間闘技場モード
異空間……闘技場……?
それって、確かゲーム内のモードの一つ……だよな……?
ああ、駄目だ、意識がどんどん薄れていく。
何も考えられない。
俺はこのまま……死ぬ……。
『移動しますか?』
二度目の問いかけが、希薄になっていく俺の意識を一瞬だけ覚醒させた。
どうせ、このままじゃ死ぬ。
なら、起死回生の可能性に賭けてみるか――。
「移動……」
俺は消え入りそうな声でつぶやいた。
最後の力を振り絞り、声を絞り出す。
「……す……る……」
なんとかその二言を口走った瞬間、俺の意識はフッと途絶えた。
「ここは――」
一体どれくらいの間、気を失っていたんだろう。
俺の意識はそこで覚醒した。
眼前に巨大な闘技場がある。
ローマのコロッセオによく似た外観の建物だ。
というか、モデルがコロッセオなんだろうな。
で、内部には円形のリングみたいなものが複数設置されている。
「間違いない、これは……ゲーム内にあった『異空間闘技場』だ」
いわゆるトレーニングモードである。
ここでは本編シナリオとは関係なく、好きなタイミングで自分のキャラクターを鍛えることができる。
経験値を積んだり、スキルポイントを溜めたりできる。
「もしかして俺もここで自分を鍛えられるんじゃないか?」
俺はハッとなった。
闘技場の建物内に入ってみる。
「やれー! ぶっ殺せ!」
「そこは剣じゃなくて突進スキルだろ!」
「しのげ! 反撃の体勢が整うまで防御だ!」
あちこちから観客の声援が聞こえてきた。
観客席は半分くらい埋まっていて、さまざまな魔族が座っていた。
別に重要キャラクターとかじゃなく、いずれもモブ……というかゲーム内では単なる背景のグラフィックである。
とはいえ、ここは現実の世界なので、彼らも一人一人生きているんだけど。
「あー、外した。絶対5番が来ると思ったのによぉ」
「おいおい、連単で今日の手持ちの半分を賭けたんだからな……頼むぞ……」
闘技場は一対一や一対多数の戦いを行っているんだけど、その勝敗を賭けることができる。
観客たちの話はまるで前世の競馬や競輪のようなギャンブルをやっている人たちみたいだった。
……と、俺は別に賭け事をしに来たわけじゃない。
ゲームの場合は、ここで選手として出場して自分を鍛えることもできるし、自分の手持ちの金を賭けることもできる。
が、今の俺に必要なのは前者である。
と――、
『ここでは闘技場で戦い、己を鍛えることができます。また、闘技場の各バトルについて賭けをすることができます』
――――――――
闘技場で戦う ←
賭ける
――――――――
空中にそんなメッセージが表示された。
ゲームで表示されるのとまったく同じメッセージである。
なら要領もゲームと一緒だろう。
俺は空中に手を伸ばし、『闘技場で戦う』をタップした。
『闘技場を選んでください』
またメッセージが出た。
これもゲームと一緒だ。
城内を見回すと、円形の闘技場が全部で四つ設置されていた。
それぞれが下級、中級、上級、超上級に分かれているはずだ。
「『下級モンスターの闘技場』にするよ」
俺は複数の闘技場の中で一番ランクが低いものを選んだ。
これでも俺の手には余るかもしれないが――。
とにかく、やってみよう。
『クリア条件:ゴブリン3体を討伐』
『挑戦しますか? はい/いいえ』
空中にそう表示された。
ゴブリンは下級モンスターであり、今の俺でも十分に倒せる相手だ。
3体いるといっても、問題はないだろう。
「よし、これだ」
俺は空中の表示のうちの『はい』の部分に指で触れた。
スマホの画面みたいにタップすると反応する形式らしい。
ぴろりん。
音が鳴り、前方に3体のゴブリンが出現した。
あれを倒せばいいんだろう。
「やるか」
俺は剣を抜いた。
そして――。
「ふう、問題なく倒せたな」
俺はゴブリン3体をあっさりと打ち倒した。
――――――
名前:ゼル・スターク
種族:デモンブレイダー
ちから:5→15
はやさ:7→19
HP:30→57
MP:0
スキル:【上段斬り】【中段突き】【下段払い】
――――――
「おお、けっこうパワーアップできるぞ!」
俺は歓喜の声を上げた。
この調子で続けて行けば、かなり強くなれるんじゃないだろうか?
『クリア条件:ゴブリン10体を討伐』
『挑戦しますか? はい/いいえ』
「次はこれか……さっきのやつの発展形だよな」
一気に10体になるのは結構きついけど……がんばれば、なんとかなるだろう。
それに俺のステータスもさっきより上がってるしな。
「よし、行ってみるか!」
****
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