第9話 木乃香姉さんとプールデートで進展はあるのか?

「いよいよ、明日は木乃香姉さんとのデートだ……」


 約束通り、一緒にプールに行く約束をし、緊張してしまう。


 家族でプールに行った事はあるが、木乃香姉さんと二人でプールに行くのは初めてだと思う。




「どうしたの、そわそわして」


「べ、別に……明日、プール行くの楽しみだね」


「そんなに楽しみ? どうせなら、彼女やクラスの友達と一緒に行った方が楽しいんじゃないの?」


「彼女なんかいないって言ってるだろ。木乃香姉さんは楽しみじゃないの?」


「くす、そんなに怒らないでよ。私もハル君と一緒にプール行くの楽しみに決まってるじゃない」




 ちょっと声を荒げてしまったが、木乃香姉さんと二人きりのデート以上に楽しみなことなどあるものか。


「しょうがないなあ。じゃあ、ちゃんと彼女が出来るまでは、お姉ちゃんが代わりになってあげる。でも、恥ずかしくない? 高校生にもなって、お姉ちゃんとデートなんて?」


「考えたことはないね」


「考えなよー。知り合いに見られて、彼女と間違われたら、嫌でしょう」




 嫌ではない。


 むしろ、堂々と姉じゃなくて彼女ですと紹介したくらいなんだけど、姉というのも嘘ではないので、今のところはそう紹介するしかないか。




「へへ、まるで子供みたいだね、ハル君。プールでそんなにはしゃいじゃうなんて」


「子供っぽいかなあ」


「そうだよー。ま、明日は楽しもうね」


 何てやり取りをしながら、一夜が過ぎていったが、結局、告白する事も叶わず、デートの日を迎える事になってしまった。


 どうにかして、この関係を前進させたいが……




「うわあ、結構、広いプールだね」


 翌日、木乃香姉さんと一緒に隣の町にある室内プールに行き、木乃香姉さんもしばらくぶりのプールに目を輝かせる。


 この前、家で俺に見せたビキニを着ていたのだが、下はパレオを巻いており、露出はかなり抑えめになっていた。




「あのさ、プール入る時は、パレオを外すんだよね?」


「ん? そりゃね。何か、最近太ったかなって思って、足を出すの恥ずかしくて」


 太っただと?


 全くそんな感じはしないし、モデルをやっているだけあって、かなりの美脚なのに太腿を晒すのも恥ずかしいのか?




「外した方が良いと思うな―。木乃香姉さんの水着、ちゃんと見たいし」


「もう、スケベだなあ、ハル君は」


 そりゃ、木乃香姉さんの水着姿はちゃんと見たいし、何より、パレオを着たままだと、泳ぎにくいんじゃないか?




「はい、持っててね」


「あ、ああ……」


「じゃあ、まずは準備運動から。一、二……」




 パレオを俺に渡し、木乃香姉さんは軽く準備体操を始める。


 やっぱり、足も綺麗だな……というか、改めてみると、スタイルが良い。


 これが見れただけでも、プールに誘ってよかった。




「よし、入ろう。あれ、ハル君は入らないの?」


「いや、このパレオ、何処に置いておけばいいんだ?」


「あ、そうか。その辺に置いておいて良いんじゃない?」


「えー……盗まれたりしないか?」


「大丈夫だって。ほら、入ろう」


「う、うん……」




 その辺に置けと言われても、プールサイドに放置しておくわけにもいかないので、仕方なく更衣室に走って戻り、俺のロッカーに入れておく。


 却って手間になってしまった気がするが、木乃香姉さんの巻いていたパレオなんて、プレミア付きそうなくらいレアなんだから、盗まれる訳にはいかんのだ。




「きゃー、流れるプール良いわねー。てか、思っていた以上に、温水プールって水温高いんだね」


「そうだな」


 まずは流れるプールに一緒に入って、ぐるっと一周していく。




(手を繋ぎたいなあ……)


「木乃香姉さん、大丈夫?」


「え? 平気だよ」


 さり気なく木乃香姉さんの手を握って、彼女をエスコートするように流れるプールを歩いていく。




 もちろん、こんな事はしなくても大丈夫なんだが、とにかく木乃香姉さんと手を繋ぐ口実が欲しかったのだ。


「えへへ、ハル君が、引っ張ってくれるんだ」


「まあね。一応さ……」


「一応?」


「う……か、カップルみたいなものじゃん」


「カップル?」




 い、言ってやったぞ……別に間違った事は言ってない。


 男女二人で居るんなら、普通にカップルに見えるだろ。


「くす、そうだね。ハル君が彼氏か。悪くないかも」


「そ、そうなんだ?」




 俺が彼氏でも悪くはない。


 それはつまり、付き合っても良いって事なんじゃないか?


 いや、いつもみたいに冗談で言っているだけかもしれないから、もうちょっと慎重に行こう。




「でも、年が離れすぎかも。彼氏というか、年の離れた弟に見えちゃうかもな」


「だろうね。でも良いじゃん。ハル君、大人っぽく見えるし、私も自慢じゃないけど、年齢以上に若く見られるよ。二十歳くらいだって言われる時あるから、実質、三つくらいしか違わないんじゃない」


「はは、何だそれ」




 見た目の年齢が三歳差くらいに見えるって事なんだろうが、仮にそうだった場合、俺が十七で、木乃香姉さんは二十歳って事か。


 うーん、微妙な年齢差だけど、やっぱり俺の方がガキに見えるのはしょうがないか。




「ハル君、年上の方が良いんだっけ? 年齢差はどのくらいが良いの?」


「えっと……十歳くらいまでなら……」


「ふーん」


 ちらっと木乃香姉さんを見ながら、そう答える。




 ていうか、木乃香姉さんが好みなんだよ。年上とかそういう問題じゃない。


「木乃香姉さんは何歳くらい年下でもOKなの?」


「そうだなあ。まあ、私も五、六歳くらいかなー。あ、本当に好きなら、高校生くらいでも良いかも」


「ほ、ほう……」


 それはつまり、俺でも良いって事かな?




 いやあ、完全に俺の事を意識しているな。


 気のせいか、手を握る力も強くなっているし、さり気なく俺に腕まで絡ませてきている。


 これはもう付き合うしか……。




「あ、ウォータースライダーあるね。一緒に滑ろうか」


「え? あ、ああ……」


 いっそ付き合っちゃおうかと言おうとした所で、木乃香姉さんが目の前にあるウォータースライダーを指差し、俺の手を引いて、流れるプールから上がる。




 トホホ……まあ、今は良いか。




「きゃー、高いね。ほら、しっかり捕まって」


「こ、こう?」


「うん。じゃあ、行くよ。きゃあああーーーー♪」


 ザブウウン!




 木乃香姉さんが俺の前に座り、俺が後ろからがっしりと彼女を抱きしめながら、一緒に滑っていく。


 さり気なく胸でも触ってやろうかと思ったが、そんな暇もなくあっという間に下のプールに着水してしまった。


「ぷはあっ! あー、あっという間だったね。へへ、もう一回滑ろうか」


「う、うん」


 起き上がった木乃香姉さんが俺の手をまた握り、もう一度滑り台へと向かう。


 恋人同士に見えるかはわからないけど、取り敢えず木乃香姉さんが楽しんでくれてるなら来て良かったと、彼女の笑顔を見て思ったのであった。

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