第63話
「それにそんなこと言ったら私こそ別に夏向さんを喜ばせるようなこと1つもしてないです」
ご機嫌で水を飲む私の隣。
しばらく何かを考え込むようにしてから、ぽつりと夏向さんが、消えかけの声で呟く。
「……そんなこと、ないけど」
ふと夜の空に溶けた夏向さん声が
上手く聞き取れなくて、え、と私は思わず顔を上げる。
目が合ったはずなのに
夏向さんが照れたように目を逸らすから、私はますます首を傾げてしまう。
「なんですか?聞こえなかった」
「なんでもねぇよ」
「えーー、気になります。教えてくださいよ」
そうしつこくまとわりつく私に
夏向さんが迷惑そうに腕を払って、それからさっさと先に歩いて行ってしまう。
諦めずにせがみながら
私は思わず顔が勝手ににやけるのを抑えられなかった。
言葉は聞き取れなかった。
だけど夏向さんのどこか耳障りのいい声が
優しいトーンのまま、いつまでも耳の奥へ残った気がした。
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