第1章前編 サクルの花嫁
砂漠の園
第2話
それは今から一ヶ月と少し前、夏休みの最中の事。
幼なじみの男の子と家族ぐるみの旅行で、中東のとある国へと出向いた時の出来事でした――…。
??? side
(どっどこかしらここ…?)
燦々と灼熱の太陽が照りつけ、熱せられた砂の匂いが外を満たす中。
私は一人、イスラム建築のモスクを彷徨(サマヨ)っていました。
モスク内の一部を観光客向けに公開しているそこは、観光シーズンも相まってたくさんの人で賑わって。
そんな中、異国の建築様式やモザイク画に目を輝かせていた私は傍らに居た幼なじみが目を離した隙に一人でどんどん先へと進んでしまい。
気が付けば全く人気のない通路を、一人で心許なげにうろうろと歩いていたのでした。
「マロンちゃん、きっと今頃心配してるわ…」
不安な気持ちを押し込めるように、肌と髪を隠す為に頭から被っているスカーフを胸元で握り締めた。
ひとまず誰かに道を聞かなければと、私は人の姿を探しました。
と、その時でした。
不意に甘い香りが鼻を掠め、それと同時に外へと続く出口が見えたのは…
「何の匂いかしら…?」
小さな疑問に膨らむ好奇心。
それに引き寄せられるように足を進めれば、そこにあったのは…
――サアアァ…
「――…わあ、素敵。」
真っ白なジャスミンの花が咲き誇る、美しい庭園が広がっていたのです。
四方をモスクの壁で囲まれたそこは、中庭に位置するのでしょう。
中央に小さな東屋(アズマヤ)があり、辺りに花の甘い匂いが充満していました。
「なんていい香り…」
今いる状況も忘れ、私はかがんで花の香りを胸一杯に吸い込んだ。
そうだわ、誠さんへのお土産にこの花の香水を買って帰ろうかしら。
きっとお似合いだわ、と。
そんな事を考えていた私は、背後に現れた気配に全く気付く事ができなかったのです…。
『そこで何をしている、この庭は関係者以外立ち入り禁止だぞ。』
「っ!」
突然後ろから聞こえた異国の言葉に驚いて、飛び上がるように背を伸ばした。
慌てて振り返ればそこには、ジャスミンの花よりも真っ白な布を纏った男の人が居て…。
褐色の肌に漆黒の髪と瞳。
そして明らかに王族の礼服を着た長身のその人は、私の顔を見た途端に目を見開いていました。
これが私と彼、シャリーフとの…
『…お前は――、』
一ヶ月後、私の婚約者となる男性との…出会いでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます