第93話

さて、彼は俺を愉しませてくれるだろうか――…?













《鈴蘭学園校舎、ツインタワー赤の塔最上階》





――ガチャッ…




「あ、桐原先輩お帰りなさい。」



「ただいま、月岡。ほらコレ、二人にお土産だよ。」



「わあ、ありがとうございますっ。」




寮から校舎へととんぼ返りし、生徒会室に足を踏み入れた今し方。


コンビニで買ったスイーツを差し出せば、それに嬉しそうに顔を綻ばせたのは会計の女子鈴蘭生。



それを横目にもう一人の後輩へと目を向ければ、そこには疲労の色を滲ませた困り顔の書記の姿があった。





「遅いですよ副会長、貴方が居ないと三鷹会長全然仕事しないんですから。」



「テメェ栗山、チクんじゃねぇよ。」




ついさっき出て行った時と、何ら変わらない体勢で。


会長席に座りながらデスクに足を乗せている隆義に、呆れの溜め息を一つ。



ったく、やろうと思えばすぐできるくせこの野郎は…。





「三鷹会長、渡した書類にまだ目を通してないんですか?」



「うっせ、丁度やるとこだったんだよ。


それにテメェだってサボってきたんだろおが、他人の事言えっかよ。」



「俺は人助けをして遅くなっただけです、誰かさんと一緒にしないで下さい。


はいコレ栗山、後は頼んだよ。」




そう言って俺は取ってきたUSBメモリを、書記の栗山に渡す。


そうして視線を元に戻せば、隆義がニヤニヤしながら俺を見ている事に気が付いた。





「…何ですか?」



「ハッ、テメェがタダで人助けなんかすっかよ。


で、ソイツはどんな面白い奴だったんだぁ?」




隆義がそう言うと他の二人もピタリと作業を止めて、俺を見てくる。


生徒会役員は、俺の『愉しみ』を唯一知ってる人間の集まり。



と言っても会計と書記は俺の趣味を、ただの人間観察と思ってるだろうが…





「どおだったんだよ、桐原ぁ。」




この男は、違う。



隆義とは昔からの付き合いで、お互いの癖(ヘキ)を誰よりもよく知ってるというのもあるが。


それ以前にこの男も、『同類』なのだ。

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