愛魚草紙

四紋龍

2024/09/21 起筆

 子供の頃から、生き物が好きだった。


 近所の河川敷でバッタや蝶を追い回していたし、スイカ畑をやっていたおじさんから毎年カブトムシを貰って飼育してもいた。


 しかしそれ以上の事は無かった。父は昔は犬やらハムスターやら文鳥やらを家族で飼っていたそうだが、母に動物アレルギーがある為に、結婚を機に購入を止め、最後に飼っていた個体が亡くなったのを最後に飼育を止めてしまったと聞く。


 私自身、生き物を飼育したいという思いを抱きつつ、小学生のカブトムシを最後に二の足を踏んでいた。無知ゆえに死なせてしまう事を恐れての事だった。緑地公園から取ってきた大量のオタマジャクシを、雑にバケツに突っ込んだままにした結果酸欠で死なせてしまったのは未だに慚愧に耐えない記憶である。両親、特に母に命を飼うという責任を問われ続けた事もあり、憧れつつも行ってこなかった。


 しかし、あれから自分も少しは成長した。大人にもなり、母の意見に左右されるような年でもなくなった。そういう事もあって、半年ほどの時間をかけて、動き続けてきた。


 候補は複数あった。普通ペットと言えば犬猫だろうが、個人的には昔から哺乳類よりも爬虫類や両生類、魚類が好きな男だった。そういう訳で犬猫は真っ先に候補から外れ、色々考えた末にニホントカゲかアクアリウムか、どちらかに絞った。


 正直に言って、特に好きなのは爬虫類なのだ。特にニホントカゲやニホンカナヘビは実に可愛らしいと思う。設備にかかる費用などを考え併せても、アクアリウム設備を買い揃えるよりはニホントカゲの方が安く済みそうではあるし、こちらに一旦は傾きかけた。しかしそこで、大きな問題が立ちはだかる。


 私は今でもずっと、両親と共に暮らしている。両親は既に高齢者であり、弟は独立した事もあって何かあった時の為に自宅に残る事にしたのだ。実際両親は共にパソコンやスマートフォンなどまともに扱えないので、そういう時などには重宝される。で、その状況を考え併せた時に、トカゲには唯一にして最大の問題があった。餌である。コオロギなりデュビアなり、ようは餌の虫が要る。父はともかく、母は流石にこれには難色を示すだろう。


 そういう訳で、私が選択したのはアクアリウムだった。最初はメダカ、それも原種のクロメダカにしよう、と思ったのである。水槽セットを買い、水槽台を用意し、書籍やYouTubeなどを当たって予備知識を得て、まず一ついきなり死なせてしまう事はないだろうと思えるほどにはなった。水槽を立ち上げ、いよいよ生体、メダカを購入だ……となったその時、思わぬ事になったのだった。

 

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