自主企画参加作品『アルタード・シチュエーション』
夢美瑠瑠
第1話
「脳科学」者の、ジョアンナ・C・リリスは、1000年後の世界へのタイムスリップのための、もっとも安価で安全性が高くて、そうして万人に可能な方法を模索していた。
今日は休日で、リリス博士は「ブランド」物の「ランサムウェア」というラフな格好で、キーボードを叩いていた。
「腱鞘炎」の、右手首には、ヴァイオレットカラーの、おしゃれな包帯を纏っていた。おしゃれなので、さらにラベンダーの花の香水をふりかけていた。これには鎮静効果があった。
まず自分で即席のBrain Storming をして、たくさんの素案を脳味噌から絞り出して、取捨選択して、どうにかものになりそうなアイデアを、シミュレーションプログラムを作ったりしつつ、だんだんに実現可能なシェイプに造形していった。
この、23世紀では、時間旅行は当たり前になってはいたが、まだ未完成な技術分野で、いろいろな未知なタイムトラベリングのノウハウが次々と発見されていたのだ…
ちょうど空間移動に、自動車やらロケットもあれば人工衛星やシャトルもあり、電力、原子力、エネルギー源が様々なのと軌を一にしている様相でもあった。
新しい時間移動のアイデアは、今しも沸騰しているニューフロンティアというか、いわば世界中の研究者がしのぎを削っているサヴァイヴァルの戦場だった。
「あーあ。もう疲れちゃったな。ボクはアイキュー268で、ホーキングの再来と言われている天才だけど…やっぱり「感覚器」を経由して脳内に再現される主観のセンシングクオリアの、なんらかのドラッグによるトランスフォーメーション、そういう現象をシミュレーションして、イマジネーションを外化する、そのプロセスにESP能力を持つ個体の超能力の要因を加味して、いわば、「タイムトラベラー」の人工的な養成をする…という方法論のお手軽なマニュアル化、は難しい作業だなあ。」
「ボクっ娘」の博士は、独り言ちた。
23世紀は、情報科学技術は飛躍的に進歩していて、飽和状態で、そのせいでいろいろな弊害が生じていた。
あまりに安楽な、ストレスフリーな日常のせいで、働かない人や老人、ジャンキー、そういう社会のお荷物、「ごくつぶし」みたいな人の比率が増加して、だんだんに「食糧難」が深刻な社会問題化しつつあった。
だから、博士はお手軽なタイムトラベル技術を実用化して、そういう社会のお荷物をどんどん強制的に「未来に」送り込む、別に抹殺するのではなくて、バイオテクノロジーで人間の若返りやら、人格改造が普通に行われている夢の未来社会で、そういう「ダメ人間のリサイクル」をおこなおう、そういう計画に賛同したわけだった。
が、外部に漏れると、誰もがわれさきに未来へ移住しようとして、タイムパラドックスの懸念はもとより、現代にだれもいなくなってしまう恐れもあったので、研究は極秘裏に行われていたのだった。
「よし、ほぼ方程式は完成。ボクってほんと天才。お気に入りの、自然農法で培養された超穀物を使った「醸造アルコール」飲料で祝杯を挙げるか!」
グビグビグビ…その「酒」は想像以上に強烈で、酔っぱらった博士はすぐぐでんぐでんになった。
そうして、気が大きくなった博士は「未来に行きたければ誰でもみんな行けばいいじゃない?そうよそうよ!」
と、その「夢の時間旅行技術」をネットで全世界中にばらまいてしまった!
…想像に難くないが、なんらかのタイムパラドックスが生じて、5分後に、人類はすべて地球上から消滅したのだった。
<了>
※この小説は、自主企画の、「10の言葉で小説を書こう」に応募したものです。
「10の言葉」は、「食糧難」、「ブランド」、「腱鞘炎」、「ランサムウェア」、「シチュエーション」、「感覚器」、「脳科学」、「醸造アルコール」、「ボクっ娘」、「1000年後」でした。
自主企画参加作品『アルタード・シチュエーション』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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