第7話・ボクもことも知って貰いたかったからかな
「貢郎くん!」
そして息を吐く間もなく、彼女は振り下ろされている最中のバットを真横に蹴り飛ばした。
『なっ!?』
想定外の衝撃にツーブロックの男が
だが、彼女の前では小さな
『あっぐあ!?』
瞬きを
「守備範囲内から離れると面倒だから、今度は動かないでね」
「は、はい!」
貢郎の返事を最後まで聞くことなく、再び少女が戦場を駆け回る。
相手がどんなに
『おいアンタ!』
最初にやって来た9割もの人間を片付けたところで、ゴミ処理場の中から新たな男が登場する。
ボサボサの金髪をしているが、アクセサリーの
また身長も低く、ラビと同程度に幼い顔つきをしていた。
『仲間を相手にして一方的にブチかますたぁ、アンタただもんじゃねーな』
「そういうキミはここのボスってことで良いかな?」
恐れ
お互い余裕があるのか、台詞の節々に相手を舐めている様子が垣間見れる。
『おうよ。オレは――』
「あー、自己紹介とか良いよそんなの。どうせすぐ忘れるもの」
『そうかよ』
話を
すると、彼の後ろに隠れた仲間の一人に向け唐突に回し蹴りを放ち、横方向に吹っ飛ばした。
まるで溜まったストレスを発散するべく。
「酷いねー。キミの仲間でしょ」
『何の断りもなく逃げた上に、一番安全な場所に隠れるやつなんか仲間とは呼べねーよ』
「そ。ま、ボクには関係無いからいいや」
言って、ラビは大将に向けて足を踏み出そうとする。
瞬間――、
「なっ!?」
相手は真横にダイブ。
直後、相手の対象の背後からトラックが急スピードで突っ込んできた。
「ラビさん!?」
反射的に叫ぶ。
しかし血の気が引く貢郎とは対照的に、彼女は
「ま、これぐらいはやって貰わないとね」
日常会話と同じテンションで少女が
馬鹿げている。
だってそうだろう。
何処の世界に迫りくるトラックに対して、逃げることもせずに堂々と相対する人間がいるのか。
だがそれは人間の理論だ。
人間を超えた存在には当てはまらない。
小学生ほどの身長の少女は。
銀の髪を持つ
ラビという存在は。
人からかけ離れた人間だ。
「せぇいいいいっっ!!」
ラビがトラックに向けて正拳突きを放つ。
顔をそむけてしまうほどの風圧と、思わず耳を
(くううううっ!?)
反射的に耳を抑えてから10数秒ほど経ち、ようやく
そうして再び貢郎が前方を見た時には、空想ともいえる光景が広がっていた。
ラビがいた場所にはトラックは無く、彼女から10メートル以上離れた場所に横たわっていたのだ。
それも車の横っ腹には大きな大きな穴が開いていた。
(何が起きたんだ……)
「さて、と」
この場に居る普通の人間全員が呆気に取られる中、少女は目を見開いていた敵の大将に向けて口を開いた。
「まだやる?」
とても簡素な質問を前にして、敵のボスは全力で首を横に振り続けた。
★
「ふぅ」
緊張から解き放たれた貢郎は後部座席で大きな息を吐いた。
目出し帽が想像以上よりも暑く、息苦しかったのもある。
「お疲れ様。付き合わせちゃってごめんね」
言いながら、彼女もまた頭の装備を外した。
急に現れる赤みを帯びた綺麗な銀髪は、知っていてもドキリとするには充分な威力だった。
「本当ですよ。始まりから何もかもがいきなりでしたし、マジで怖かったです。
「良い経験になったじゃん。悪人を
「あんま嬉しくないんですが」
貢郎の反応にケラケラ笑うラビ。
実に楽しそうである。
「あの人達はどうなっちゃうんです?」
神妙な面持ちで
撤収する際に黒服の男達に連行されていく様を見てしまったせいで、引っ掛かっていたのだ。
この問いにはラビの表情にも影がさした。
「良くて何らかのペナルティを課せられた上で解放。悪くて海の
「そう……ですか」
連れて行かれる際の絶望した顔を見れば大体想像はつく。
だが、いざ実際に改めて言葉にされると中々来るものがあった。
「貢郎くんが気にすること無いよ。あいつ等の罪状を知ったら馬鹿馬鹿しくなるよ?」
「……ちなみにどんな?」
「薬物の密売に、未成年への売春指示、子供の
本当に救いようがなかった。
これだけの罪を重ねれば同情する意味なんて何処にも無い。
しかし新たな疑問も生まれる。
「それだけのことをやっていながら、警察は手出し出来なかったんですか?」
窓の外に映る工場の明かりに視線を向けていたラビに質問を投げる。
彼女は笑みを作ることなく再びこちらに集中した。
「そりゃあ警察だって馬鹿じゃないから調査はするし、逮捕しようと現在進行形で動いてるはずだよ」
「じゃあどうしてわざわざラビさんが?」
「警察は時間が掛かるから」
あまりに単純明快な理由が返ってきた。
「それに相手が半グレだからってのもあるかな」
半グレとは暴力団に所属せずに犯罪行為を行う集団のことだ。
あまり裏社会に詳しくない貢郎でも、それくらいのことは分かる。
「表社会には守るべき
「…………」
「だからこそ、一番厄介なのは
『近頃は裏の方も
スキンへッドの運転手の返しに、ラビがクスッと笑う。見た目通り野太い声だった。
「それでね、困るのは表の人だけじゃなくて裏の人もなんだ。自分の縄張りで好き勝手されると回り回って被害を
『この世界は下に見られた時が終わりの始まりですからね』
また運転手の合いの手が入る。
「でも、下手に手を出せば警察どころか同業者にも目を付けられかねない」
『まさに八方塞がりですね』
「さっきからやけに話に絡んでくるね。普段は無口なのに」
『話してないと眠っちゃいそうで』
にやけたラビがスキンヘッドの頭を楽しそうにポンポンと叩き始める。
運転に支障が出そうな扱いだが、叩かれてる方はまんざらでもなさそうだった。
「だからラビさんが代わりに、半グレ達を潰してるってことですか?」
「うん。グレーな連中にはピッタリでしょ。ボクも人間と怪物の間みたいな立ち位置でグレーだし」
さらりと悲しいことを言われた気がしたが、何故だか気にならなかった。
きっと彼女の明るさが台詞を明るいものへと
「ま、でも、ボクも生活があるから慈善事業じゃないけどね。裏の人達からは報酬を貰ってるよ」
「それって結構なお金になるんです?」
「もちろん。何が資金源かは想像にお任せするよ。あ、ちなみにボクは人殺しはしてないからね」
強調した部分が部分なだけに、貢郎はこれ以上突っ込まなかった。
そして今一度小さく深呼吸すると、貢郎は最後の質問を投げかけた。
「じゃあ最後に」
「ん? 何?」
「何で俺を連れて来たんですか? 全然お役に立てませんでしたし、邪魔だったんじゃ」
「そうだねー」
「ボクもことも知って貰いたかったからかな」
「それだけですか?」
「うん、それだけ。どう? 仕事辞めたくなった?」
小悪魔のような笑みを向けながら言ってくる。
答えなんてどうでもいいようなあどけなさだった。
貢郎は彼女の意地悪な問いに首を振り答える。
「いいや。驚きましたけど、護ってくれるって信じてましたし」
「その割にはめっちゃビビってたじゃん」
「リンスさんの突飛な行動に比べれば全然ですよ」
「違いない」
彼女の一言で、車内は笑い声で包まれた。
貢郎の目には、目の前の少女が普通の人間にしか思えなかった。
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