青春の治験者 〜冴えない陰キャだった俺が、美少女たちとモンスター狩りの青春を送る話〜

蛇乃木乱麻

第1話 色のない世界

 俺の目の前にいるのはモンスターだった。

 モンスターペアレントやモンスターカスタマーとかの人間の中に潜む化け物の比喩ではなく、どちらかと言えばモンスターハ〇ターのような野性的な装いだった。


 そんなモンスターを、一発の弾丸が貫いた。


 ◇


 今日は、俺の学生生活のように曇っている。


 今は太陽が嫌いだが、思えば小学生の時は雨が嫌いだった。理由は極めて単純で幼稚で青いもの。


「友達と外で遊べなくなるから」


 今はこうして校舎という名の絶望製造機が双璧をなす中庭のベンチで、俺が唯一触れられる女性の愛を形にしたともいうべきお弁当に舌鼓を打つ日陰者だが、過去はそうではなかった。

 我らが学び舎『静谷しずがや高校』の中庭の象徴ともいうべき一本桜も、俺に憐れむようにピンク色の涙を落としている。違うな、あいつは笑いすぎて涙が出てる。


 いつから、ということではない。

 俺の青い春は突然黒になったわけではなく、紺藍こんあい金青こんじょうを通過しながらグラデーション的に変異した。

 例えば中学の時、仲良し男女5:5グループの中でどんどんカップルができる中、俺だけ付き合えなかったことがあった。もう一つたとえば、同じ時期に運動があまりにもできなくて、部活で風船みたいに浮きまくったり。


 数々の失敗が俺の心にかげりをつくった。

 周りのせいにはできないが、誰か俺の愚行を止めてくれてもよかったのではないかと思う。


 そんな中でも仲良くしてくれた優しい女子がいたな。もう名前も思い出せない。

 まあ中学生の頃の記憶なんて高2にもなればほとんど曖昧になってしまうものだろう。俺が中学に執着していないだけか?


 たまに横切るカップルたちに怨嗟の目線を向け、会話相手がいないゆえの自問自答をしながら、黄色の卵焼きを茶色の箸で掴んで持ち上げた。

 しかし、持ち上げた卵焼きが俺の口に入ることはなかった。金輪際。


「糖分が多くていい卵焼き」

 俺の手から生える二つの木の棒の先には、卵焼きではなく美少女がついていた。

 艶っ艶の黒い髪をポニーテルとし、潤いに満ちたルビーレッドの唇を携え、特徴的な大きく煌めく金色の目をした美少女が、そこにいた。


 俺の心が一気に色を取り戻した。

 俺はこの美少女と間接キスをしてしまったんだ。明日隕石が地球に落ちようとも、人類がサルに敗北しようとも、悪党がヒーローを待たずしてミサイルのスイッチを35分前に押そうとも、すべてが俺のせいでいい。

 俺は今この瞬間のために生きてきた。ありがとう。

 これで俺の人生は終幕だ! happy End.


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 くぅ~疲れましたw これにて完結です!

 実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


「自分の世界に入り込んでるところ悪いのだけれど、卯月うずき 黒春くろはる君で間違いないかな?」

 俺は美少女にフルネームを呼ばれたことで息を吹き返した。

 心の中に潜む、古のネット民が出てきてしまったようだ。


「は、はい。そ、そうですが……」

 ここは冷静を保とう。俺のフルネームを知っていると言うことは、俺のことが好きである可能性がある。

 にしても美しい顔だ。レンコンチップス色のブレザーと黒チェックのスカートがよく似合っている。リボンが赤だから、俺と同じ2年生なのか? だとしたら、それも運命か?


「私は師走しわす 冬華とうか。これからよろしくね」

 師走さんは俺の方に手を差し出してくる。


 これから!? 俺とこの人に未来がある!?

 ズボンで手をふき、俺は差し出された手を掴んだ。


 そこには宇宙が広がった。

 無限に連なる人間のつながりを、ぬくもりを感じる。


 手がもちもちすぎる。


 ゆるぎない多幸感が抱きしめるように俺を包む。


「あぁ……ああ……」

 崩れ落ちる俺を師走さんが抱き上げる。

 俺じゃない温かみが皮膚を通して脳を焼く。

 ここは真夏のビーチにBBQ! 線香花火に打ち上げ花火に手持ち花火! 最高の夏が来た!


「おーい、戻ってきてー」

 はっ!? またどこかに行ってしまっていた。


「あ、よかったよかった。このままじゃモンスターの卵を破壊するところだった」


「モンスターの卵?」


「そう、黒春くんはこのまま行くとモンスターになっちゃうんだよ」

 美少女が意味不明なことを言い始めた。

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