そして勇者は眠りにつく
白雪れもん
獅子
三百年ぶりに目覚めた獅子の王「コクレオ」は、すぐに異変を察知した。彼が眠りについていた間に、世界は大きく様変わりしていた。かつての戦乱は消え去り、平和な時代が続いているように見えた。しかし、目覚めたばかりの彼が目にしたのは、異様なニュースだった。
「この世には五人の勇者が存在する。獅子の王「コクレオ」、竜雲の王「神竜」、蛇道の王「蛇唾駆」、地電の王「テラ」、そして最古の王「カイナン」。しかし、今日未明、獅子の王を除くすべての勇者が行方不明となった。」
ニュースの画面には、巨大な電光掲示板に映し出された勇者たちの名前と姿が並んでいた。しかし、四人は突然と姿を消したという。コクレオはすぐに理解した――何か大きな危機が迫っているのだ、と。
「神竜、蛇唾駆、テラ、カイナン…あいつらが消えただと?一体何が起きている?」
コクレオは、彼らの行方を追い、真実を突き止めるために旅に出ることを決意した。
コクレオは眠りにつく前、魔王ギャザズレイスとの壮絶な戦いを経て、世界を守り切った。その後、再び目覚めることはないと考えていた。しかし、今、仲間たちが消えたという事実に、彼はただ静観することはできなかった。眠りを経て蓄えた力が体内で脈打ち、かつての戦士の血が目覚める。
旅の最初の目的地は「神竜」の居場所だ。神竜は、空を支配する王であり、彼の領域で何か手がかりが見つかるかもしれない。コクレオは瞬時に動き出し、地球上のあらゆる風景を眺めながら、遥か遠くにある神竜の居城を目指す。
「もし何かが起きているなら、神竜の力を感じられるはずだ」
しかし、神竜の居城に到着したコクレオは驚愕した。空を司る強大な力を持つ神竜の居城は、完全な沈黙に包まれていた。神竜の存在感がまったく感じられない。まるで、その場から力がすべて吸い取られたかのようだった。
次に向かったのは蛇道の王「蛇唾駆」の拠点だ。蛇唾駆は地下深くにその拠点を構えており、地中の奥深くに潜む存在だ。暗闇の中で何かが待ち構えているかもしれないという不安があったが、コクレオは躊躇せずその場所へ向かった。
地下に降り立つと、そこには荒廃した遺跡が広がっていた。蛇唾駆が姿を消したことで、その領域全体が荒れ果てていたのだ。コクレオはその場所を慎重に調べる。だが、ここにも何の手がかりもない。
「蛇唾駆も消えてしまったか…。これはただ事ではないな」
次に訪れるべき場所は、地電の王「テラ」の領域。テラは地球の深層に眠るエネルギーを操る王であり、大地の力と一体化している。彼が姿を消すということは、地球そのものに大きな影響を与える可能性があった。
コクレオがテラの領域に到着すると、地面は不気味なまでに静かだった。大地の力が完全に失われ、テラが消えたことで、その土地が死んだかのように見えた。コクレオはその光景を前にして、深い決意を胸に抱いた。
残るは最古の王「カイナン」だ。カイナンは最も長くこの世界を見守ってきた勇者であり、他の勇者たちからも敬愛される存在だ。カイナンが姿を消したことが、今回の事件の核心にあるに違いないとコクレオは感じていた。
カイナンの領域に向かう途中、コクレオはある気配を感じた。何者かが彼を監視している――それは非常に強大な力を持つ存在だ。コクレオはその気配に立ち止まり、周囲を見回したが、姿は見えなかった。
「この感覚…まさかギャザズレイスか?」
かつての魔王の名を口にしたコクレオは、その可能性を否定しようとしたが、何かが不安を掻き立てていた。もしもギャザズレイスが復活しているとすれば、今回の事件と何らかの関係があるのかもしれない。
コクレオはカイナンの拠点に到着したが、そこもまた無人だった。全ての勇者たちが何の痕跡も残さずに姿を消した。コクレオはその場に立ち尽くし、思考を巡らせた。
「四人とも消えた理由は一体何だ?誰が、何の目的でこんなことを…」
コクレオは深い静寂の中で、ふとある事実に気付いた。勇者の平均寿命は三千年――だが、彼の仲間たちはまだその時を迎えていない。それなのに全員が消えたというのは、何か自然の摂理に反する力が働いている。
その瞬間、コクレオの脳裏にある考えが浮かんだ。彼は残された自分こそが、この謎を解く鍵であり、最後の砦なのだと感じた。そして、かつてギャザズレイスを打ち倒したように、再び自分が立ち上がる時が来たのだ。
「全ての勇者を連れ去ったのは一体誰なのか…真実を突き止めるまで、この旅は終わらない」
コクレオは力強く歩みを進め、四人の行方を追う旅を続ける決意を固めた。その背中には、獅子の王としての誇りと、仲間たちを取り戻す使命感が宿っていた。
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