神は不在なので異世界でもどうでしょう?
ひらりん
プロローグ「前兆の夢」
俺にとって、俺はどうでも良かった。
俺がたとえ世界から拒絶され、隔絶されようとも、そんなことは些細なことでしかなかった。だって俺みたいな人間がいたら世界はおかしくなってしまう。俺一人が消えうせて世界が救済されるというのならこの命、喜んで神様どもに差し出そう。
俺一人で済むのなら、万々歳だ。
それなのに、そんな俺に彼女は告げた。
「どうして、そんな辛い選択をするのか」と。
正直言って理解できなかった。他の国の知らない言語を聞いてる感覚に近い。何か言っていることは分かっても、それの意味は全く理解できない。
辛い選択?阿呆なのか。
どうしてそう、周りの人間は勝手に他人の感情を決めつける。相手が何を思っているのかなんて、この世の誰にもわかるはずない。無論、それは冥界も天界も同じだ。
たとえ神様でも心を理解できることなんてできない。
けれど、周りの人間は容易くそれを決めつけ、押しつけ、同情してくる、その意味不明で支離滅裂な説得に俺は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
だが、どんなに怒り心頭になっていたとしても、俺は決して彼女を殺すことはしない。
殺人なんて良くない。絶対に良くないことだ。
けど俺が彼女を怒りで殺してしまいそうだというのなら、話は簡単だ。
その怒りの発端である俺を殺す、ただそれだけで惨劇は免れるのだ。
それなら殺人は未然に防げる。
なんて素晴らしいことなのか。
なのに、
なのにどうして、彼女は俺を止める?
何故俺の体を押し倒してまで、俺が俺を殺そうとするのを防ごうとするのか。
分からない。何も、分からない。
君を殺そうとしている俺を殺そうとする俺を、何故止めるのか。
君を助けるためにしているというのに、何故嫌がるのか。
何故、そんなにも辛く、悲しそうで、今にも泣きそうな顔をするんだ。
分からない。何も、分からない。
けれど、俺は殺さなくちゃいけない。
たとえ彼女―君が泣こうとも、俺が死ねば君は絶対に幸せになれる。
いつか必ず、君は幸せになる。幸せにならなくちゃいけない。
だから。
だから、俺は自殺を選ぶ。
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