6.懇親会
「と、いうわけで~」
「「「乾杯!!」」」
ガチャンと良い音を立ててグラスを合わせると、3人は一気に飲み物をあおった。
「~~~美味しいっ!!」
真っ先に声をあげたのはるいざだった。
「麻里奈ちゃん、これ凄く美味しいわ!飲み口も良くて最高よ!」
「でしょ~!? うちの自慢の一品なんだから!」
「いやー、まさかアルコールを持参しているヤツが居たとは……」
譲からアルコール禁止と言われたときは、目に見えて落ち込んでいたるいざだが、部屋着に着替えて克己の部屋を訪ねてきた麻里奈の大荷物から酒瓶が出てきた瞬間、目を輝かせて今に至る。
ちなみに克己は念のためにウーロン茶だ。女性陣2人には楽しんで貰おうと、今回は何かあったときの盾に徹することにしたのだ。
「持ち物検査も無かったし、アルコールくらい可愛いモノでしょ」
上機嫌でそう言う麻里奈の隣で、既に酔っぱらってるるいざが満足そうに頷いている。
「あーもー、るいざは弱いんだから気を付けろよ」
「だーいじょーぶよぉ」
言ったそばから一口呑んで、愛おしそうにグラスを撫でている。
「そう言えば、2人は元々知り合いだったの?」
こっちはまだほろ酔いでマトモな麻里奈が克己に聞いた。
「ああ、そうなんだ。俺とるいざは病院でボランティアをしていて、俺はガードマン、るいざは炊き出し係とか清掃とか、バックアップスタッフだったんだ」
「うんうん」
「それで親しいのね。もしかして縣課長とも顔見知りなの?」
「いや、アイツは勧誘に来たときに一度会っただけ。全然知らないよ」
「そうなんだ? 名前で呼んでたからてっきり知り合いかと思った」
「それはねー、『譲』でいいって譲が言ったのー」
「歳も同じくらいだし、フランクな方が好きなんじゃないかな? 多分だけど」
するとなぜかるいざが自慢げに言った。
「克己のカンは当たるから」
それに苦笑して、麻里奈は部屋の鍵を取り出した。
「歳、同じくらいかなぁ? 私より年下に見えたけど」
「はぁ? むしろお前が年下なんじゃないのか? つか、お前学生じゃないのか?」
「失礼ね! 私はれっきとした20歳よ!」
「いや、見栄はらなくても良いから」
「見栄じゃないわよ!」
そう言うと麻里奈はウィンドウを開き、自分のプロフィールを開いた。そこに記載されている年齢は確かに20歳。
「「えーーー!?」」
克己とるいざが揃って驚きの声を上げた。
「そう言うアンタはいくつなのよ?」
「俺は21」
「私は24。譲は私より年下なのは確かなんだけど……」
するとすかさず麻里奈はプロフィール一覧から譲を開く。
そこには顔写真と共に氏名年齢性別と記載されていて……。
「あの見た目で21!? 詐欺だわ」
「いや、それお前に言いたいから」
すかさず克己がツッコんだ。
るいざもすっかり酔いが覚めて改めて麻里奈を見た。
身長はるいざよりも低い。150cmジャストくらいだろう。そして、背中の中程までの髪は赤みを帯びている。これは恐らくウイルスの影響で、本来の色から変わったのだろう。能力者は、なぜか能力を得る過程で、その能力が身体の色に影響を及ぼす事がある。そして顔立ちはどう見ても日本人で、目がくりっとしていて童顔である。ちなみに瞳は茶色だ。
どう見ても20には見えない。
かく言う克己は身長184cmの細マッチョ体型で、短くカットされた髪はピンク色、瞳はグリーンだ。こちらは見た目は年相応である。
プロフィールを眺めていた麻里奈は、次に克己のページを開く。
「佐々木Jr.克己って、日本人なの?」
「いや、ハーフ。Jr.でも克己でも好きに呼んでくれ」
「私はるいざでいいわ」
「克己にるいざね。私も呼び捨てで良いわよ」
「了解」
基地の人間のプロフィールを何とはなしに眺めはじめる麻里奈。と言っても大した情報は記載されて無いが。
「ところで麻里奈」
「なあに?」
さっきの驚きですっかり酔いの覚めたるいざが、おずおずとグラスを差し出した。
「もう一杯いただいても良いかしら?」
「もちろん!」
――同時刻。
アラームと共に薄暗い部屋で点滅する端末。
「鳴ってる」
やや掠れた声で譲が言う。
「解っている」
神崎は溜め息混じりに端末の音声通話をオンにした。
「どうした?」
『いつもの妨害工作です』
「場所は?」
『コンピュータールームのサーバー室3です』
「直ぐに行く」
『所長にも連絡します』
「不要だ。丁度そこに居る」
「物理か? データか?」
『両方です』
「両方か。すぐに向かう。現状維持に勤めてくれ」
『了解しました!』
フッと音声通話が終了する。
「続きは後だな」
神崎の言葉に、譲が鼻で笑った。
「そんな余裕があるのか?」
「どっちの意味だ?」
「さぁね」
脱いだシャツをひっかけながら、譲はクルリとカギを回してニヤリと笑った。
「サーバー室って事は、あちらさんも大分じれているようだ」
「システムを掌握しようにも、全貌が掴めないのだろう」
「簡単に掴まれちゃ困る」
シャツに袖を通しながら歩き始める譲。
「しかし、工期の遅れからお前を引きずりおろそうとしているんだろう? そっちはどうする」
譲の半歩後ろを歩きながら、神崎が言う。
「ここの実権を俺が持つことに、上が反対してるのなんか今更だ。それ込みで、アンタも含め、工事の人員をここにいれてるんだ」
好戦的な笑みを浮かべる譲。しかし、その瞳はとても冷たい。
「毒を食らわば皿までだ。その上で、キッチリ倍返しして暫く黙って貰うさ」
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