日本再興機関ESPセクション ー虚空を駆けるー

島田小里

第1章 集合

1.集合①

「暇だな……」


 青空の下、瓦礫の山の上、1人立ち尽くして縣 譲は呟いた。

 視界に広がるのは、見渡す限り瓦礫と青空のみだ。

 時計を表示すれば、時刻は午後1時を少し回ったところ。


「あと30分か」


 彼がこんな場所にいるのには事情があった。好き好んで瓦礫の中に居るわけではない。

 そしてこの瓦礫の山は彼が造ったものでもない。

 第三次世界大戦の名残だ。


 --第三次世界大戦。

 どこの国にも属さない海域に、突如現れた遺跡で発見された植物の利権を争い、引き起こされた第三次世界大戦は、核兵器やら細菌兵器やらの使用により、たった1日で終結した。

 いや、せざるを得なかった。

 当時すでに地球数十個も破壊できるというほどの威力をもつ兵器の争いは当然長続きするものではない。


「暇だな」


 もう一度呟くと、譲は軽く息をついた。

 途端に目の前の何もない空間に、いくつかのウィンドウが開く。

 あと30分。

 譲は先程までしていた作業の続きを、淀みのない手付きで進めていく。

 彼がここに居るのは、待ち合わせのためだった。来るか来ないか分からない相手との。

 風がふわりと彼の髪を攫う。薄茶色の髪が日の光を受けて金色に光り、男性にしては細身の体躯と整った顔とあいまって、神々しさを感じる。


 だがしかし、そんな見た目に反して、譲の性格は大雑把だった。

 召集をかけた側としては、待ち合わせ場所が分からない可能性を考慮して、30分前に集合場所に行くべきだと、五月蝿く言われ、仕方なく今ここに居るのだ。それがなければ遅れている作業を少しでも進めたいところだ。

譲はウィンドウに作業途中のコードやツールを入力していく。

 と、同時に辺りの様子も窺う。

 眼鏡の奥の赤紫色の瞳が視線はそのままで、ふっとどこかを見つめる。


 こちらを監視しているのは6カ所、か。


 どうやら暇人が多いらしい。

 譲はそれらの存在を無視して、作業を続けていく。今している作業は、彼の足元、地下に広がっている巨大な建物--シェルターと言っても過言ではないそれの基幹システムだ。


 第三次世界大戦を境に地上は最近まで放射能が溢れ、とても人の住める場所では無かった。更に、地球規模で謎の特殊ウイルスが発生し、30歳以上の生存率が激減。その数は1%とも言われ、地球の未来は若年層の手にかかっていた。


 と、ウィンドウの向こうにふわりと揺れる黒髪が見えた。


「こんにちは、縣さん」


 腰まである長い黒髪を三つ編みにした、整った顔の女性が、少々緊張した顔で微笑んだ。

 たしか、『来瀬るいざ』だ。年齢は譲より3つ年上の24歳。


「『譲』で良い。俺の方が年下だし」

「でも、所長兼課長さんだしね?」


 彼女の言うとおり、譲は地下に広がるシェルターの所長だった。だが、あいにく譲はそれらに興味が無かった。


「肩書きなんか気にしなくて良い。それに、堅苦しいのは嫌いなんだ」


 視線をウィンドウに戻し、作業しながら言った譲の態度を気にした風もなく、彼女--るいざは頷いた。


「わかったわ。私も『るいざ』で良いから」

「了解」


 これで待ち合わせの人物が少なくとも1人は揃ったことになる。

 待ち合わせの人物--それはこの地下の巨大基地の職員候補、正しくは日本再興機関特殊能力課、略してESPセクションの職員候補である。


 戦争に参加していなかったとはいえ、特殊ウイルスの被害は狭い日本にもまたたくまに広がった。そうした中、生き残った人間に一種のESP能力をもつ人間が生まれた。それがウイルスによるものなのか因果関係ははっきりしていないが、確かにこの戦争を境にそういった能力をもつ人間が生まれた。しかしそれは突発的なものであったが故に、能力を把握できず狂死してしまう者が多発した。そこで大戦後生き残った政府の人間で興した日本再興機関は幼い頃からそういった能力をもっていたと思われる人物のもとに同じ能力者を集め、正しく能力を使いこなせるよう教育する機関を設立することを依頼、その人物はその依頼を受け半年をかけて日本にいる能力者を探し出した。その人物こそが譲なのである。そして今日、日本再興機関特殊能力課(ESPセクション)が発動したのである。


 つまりは、普通の日本人女性としか見えない彼女--来瀬るいざも、譲と同じ、能力者ということである。

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