革命は止まれない
楢原由紀子
序章:共和国に要らないもの
――私はどうにか長い人生を送ってこられた。とりわけ、非常に幸せな人生を。
そして私は、私の思い出にはいくらかの栄光が伴うだろうと信じている。
それ以上何を望むことがあろうか?―(中略)―
私は今日君に手紙を書いておく、この先そうすることはもう多分私にはまず許されなくなるだろうから。そして私には、君や、親しい人たちのことだけに思いをいたしていられることは、しみじみとした慰めだ、この最後の時に――
横合いから腕を掴み支えられ、一人の男が広場を進んでくる。
歳は40代後半から50代前半くらいか。栗色の髪、灰色の知的な瞳、ほっそり長い指、やつれこそすれど優雅な佇まい。肉体労働者ではないことが一目で分かる。
群衆が一瞬沸き、すぐに静まり返る。沈黙が意味するのは見世物への期待か、神への祈りか。
刑吏が無遠慮に男の頸へ腕を伸ばし、ぐっと引いた。襟首が大きく覗く。
男は形のいい唇を歪め、苦く笑う。再び口を結び、数段を慎重に上った。
「マリー。私の大切な君。もう一度君と実験を……!!」
微かな呟きが洩れる。目隠しをされ、長身を台の上へうつ伏せに横たえる。
「嘘、嘘よ!いや!だめ!!」
この場にいるはずはない
もはや目に見えない合図と共に、空気を切る鋭い音がする。群衆から悲鳴と歓声が上がった。
執行人は黙々と作業をこなす。この日は仕事が多かった。
群衆の興奮はまだ収まらない。予定がすべて終わり、執行人と刑吏が頷きあう。
「
業務報告書に記入するように、平板な声で刑吏が告げる。
ギロチンと群衆。それが彼らの日常、革命政府の下での仕事だった。
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