第68話
男はもう別のシャツを着ていて、両手に何かを持っていた。
一つは、洗面器のようなもの。
一つは、衣類のようなもの。
それらを抱え、格子戸を開けてわたしの近くまで歩いて来た。
「何が…あったの?今の音は──。」
洗面器を床に置いて中に入っている水にタオルを浸しているその男に、わたしは尋ねた。
男はタオルを絞りながらチラリとわたしを見ると、「気にしないで。」と答えた。
この人やっぱり、日本語が話せるんだ──。
どうしてヒヤマは、日本語を話せるのは自分だけなんて言ったんだろう。
俯きタオルを絞る彼の顔は、見とれてしまうくらいやっぱり美しい。
長い睫毛に、柔らかい栗色の前髪。
この人は、一体何者なんだろう───。
彼を見つめていたままだったから、顔を上げた彼とばっちり目が合った。
咄嗟のことでわたしは思わず赤くなってしまったけど、彼は落ち着き払った口調でこう言った。
「脱がせるけど、怖がらないで。」
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