第66話
行かないでって、言いたかった。
だけどわたしは、それを言えなかった。
男がいなくなったこの部屋は、人の温もりなんて縁遠いもので──。
髭の男の、気持ち悪い息遣いを思い出してしまう。
体はまだ、ベタベタと気持ち悪い。
あの舌の感触──。
あの手の感触──。
嫌だ、思い出したくない。
お願い…帰って来て。
わたしを、一人にしないで───。
パァァァンッ───!!!
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